スコッチウイスキーのブームと変化
昔は高級品だったスコッチ
年代によってスコッチウイスキーへのイメージは異なります。
そもそも日本のウイスキーの歴史とはサントリーとニッカの販売促進活動の歴史と言っても過言ではありません。
そして税制変化の影響も大きかったと言えます。
現在60代以上の方からよく聞くのは、「スコッチは高級品でジョニ黒は2万円くらいした。」という話。
これは実際のところそのとおりで、1980年台で1万円前後、その前はもっと高く、1989年の酒税法改正によって、一気に値下がりして今の価格になったのです。
それまでは、スコッチは日常飲めるお酒ではなかったため、国産ウイスキー中心で飲まれていました。
さらに、シングルモルトが日本で飲まれる様になったのは1987年にクラシックモルトシリーズが発売された後なので、今のように飲まれる様になったのは結構最近なのです。
飲み方も、国産ウイスキーの販売促進をしていた時代は和食と合わせる水割りなどが中心でした。
そこからアメリカンカルチャーがブームとなり、バーボンをロックで飲む人たちが増加します。
その後ハイボールブームにより角やトリスのハイボールがビール代わりの飲まれるようになり、続いてシングルモルトが飲まれるようになって、ようやくストレートで飲む文化が少しずつ広がってきています。
現代のウイスキー飲みの特徴
そして現在は、インターネットでいろいろな情報を調べることができます。
ウイスキーが好きで、バーに飲みに来る人たちは、事前に「ウイスキーとはどういう飲み方がよいか」ネットで調べてからくる人たちが多いです。
このBARRELもそういった情報を取り扱うメディアのひとつですね。
そうやって調べて来られた方の中には「ウイスキーはストレートで飲むもの」と心に決めて来られる方も多いです。
おすすめのお酒を目の前に置いたら、すぐにスマホを取り出して、グーグル先生にお尋ねされてしまうと、私達バーテンダーの意味が半減・・・。
「なぜこのタイミングでこのお酒をお出したのか」、「なぜおすすめなのか」、「どういう飲み方がよいのか」、など是非いろいろ質問してみてください。
インターネットでは答えてくれない、臨場感のあるアンサーを楽しんでいただければと思います。
ウイスキーに今よりハマるためには
では、今以上にウイスキーを好きになりたい、趣味にしたいと思っている方はどういう風に情報を集めていけば良いのか。
私の思う方法を幾つか記しておきます。みなさまのヒントになればと思います。
数を飲める「場所」をつくっておく
ウイスキーはアクワイヤードリカーです。
アクワイヤード(acquired)とは「後天的な」「習得した」という意味で、ウイスキーは飲み慣れてくるとより味がわかるようになるお酒という意味です。
この記事を読んでいる皆様はすでにウイスキーが好きだと思いますが、より好きになるにはいろいろな種類を飲むことが大切です。
当店では毎週5本ずつくらいの新商品が入荷しますし、ウイスキーを試飲可能な酒屋さんも増えてきました。
そして、世の中にはその何倍ものウイスキーが新商品としてリリースされています。
いつでも新しいウイスキーに出会うことができる「場所」を作っておくのは重要です。
飲み方を制覇してみよう
ウイスキーの飲み方で飲んだことのない飲み方は無いですか?
ストレート、ロック、水割り、ソーダ割り、お湯割り、トゥワイスアップ、ミストなどなどいろいろな飲み方がありますが、例えば自分の好きな一つの銘柄で全部の飲み方をやってみるというのはどうでしょう?
そして次のステップは、バーボン樽熟成のウイスキー、シェリー樽熟成のウイスキー、ピートの強いウイスキーの3種類のボトルを選んで、すべての飲み方を行ってみるのです。
種類ごとにどういう飲み方をすると、どう感じるかを明確にしていけば、様々なシチュエーションで使い分ける事ができます。
新しいウイスキーに出会ったときに、「これはハイボールが美味しそうだ」とイメージが沸くようになってくるのです。
熱燗にして美味しいウイスキー、冷凍庫で凍らせて美味しいウイスキーとか、このウイスキーでこういうカクテルにしたら面白いかなとか。
そうなると次なるステップ。
どういう料理に合わせるか、どういう料理の調味料にしてしまうかが何となくイメージできるようになります。
生活の一部にウイスキーが入ってくるのです。
スタートはマクロで捉えてどんどんと細部の解像度を上げていくイメージです。
オーツカ編集長のようにアイスにかけるジュレを作りたくなる心境がわかるかと思います。
楽しくなりますね。
6つの地域の代表的なものを制覇しよう
スコッチウイスキーの蒸溜所は約110ありますが、地域は大きくわけて6つしかありません。
それならば各地域の代表的な蒸溜所をサクッと6種類飲んでしまってはいかがでしょうか?
前述しましたが、まず全体像を捉えてしまって、その後により細部を知ることがスコッチを極める最短距離です。
下記に各地域2個ずつくらい例をあげておきますので、参考にしてみてください。
地域 | 銘柄 |
ハイランド | クライヌリッシュ14年、グレンモーレンジィ10年、グレンドロナック12年 |
スペイサイド | グレンフィディック12年、ザ・マッカラン12年、ザ・グレンリベット12年 |
ローランド | オーヘントッシャン12年 |
キャンベルタウン | スプリングバンク10年 |
アイランズ | ハイランドパーク12年、タリスカー10年 |
アイラ | ラフロイグ10年、アードベッグ10年、ラガヴーリン16年 |
樽×ピートありなしのマトリックスを制覇しよう
スコッチおすすめ銘柄紹介で記載した、樽×ピートありなしのマトリックスを意識しつつ、飲んだことのないマトリックスを飲んで埋めていきましょう。
さらにウイスキーが身近に感じ、銘柄や作り方紹介、色を見たときになんとなく味の想像がつくようになってきます。
ウイスキーはアクワイヤードリカー。だいたいここまで飲むと、体がウイスキーを理解してくると思います。
ボトラーズウイスキーを飲もう
オフィシャルボトルをだいたい把握したら、次はボトラーズウイスキーを飲んでみましょう。
ボトラーズウイスキーは、蒸溜所から業者が樽ごと買い付けて、独自にボトリング、販売しています。
買い付けた1樽の量しかリリースされないので大変に希少ですが、1樽ごと味わいの違う貴重な経験を積めます。
そして1樽単位ということは、種類も豊富。
例えばラフロイグはオフィシャル10年とセレクトカスクと・・・とオフィシャルボトルだと10種類くらいしかなかなかお目にかかることは無い(もちろんオフィシャルの限定ボトルを入れるともっといきますが・・・)のですが、ボトラーズだとそれこそ何十種類とあります。
数々のボトラーズボトルの中には「ラフロイグってこんな味のウイスキーもできるんだ!」という感動があったりします。
各銘柄の可能性に対して、どんどん期待が膨らんでいきますね。
また、樽を買い付けているバイヤーさんの腕もありますので、「このボトラーズは自分の好み」という会社も出てきたりします。
少しだけウイスキーの勉強をしよう
くどいようですが、ウイスキーはアクワイヤードリカーです。
後天的なものなのですが、ウイスキーの知識も後天的に美味しさを感じる要素の一つ。
例えば、ウイスキーの製造工程で、
- どういう機材を使うと酒質の強いウイスキーになりやすいのか
- どこの蒸溜所はどのくらいのピートを焚いているのか
- どういう樽をメインで使用しているのか
- その樽はどうやって造られているのか
など、調べれば調べるほど、その風味を造り上げるためのたくさんのヒントを掘り起こせます。
正直、私もお客様からの質問でスムーズに答えられない質問を受けることがまだあります。
調べても調べ尽くせないのがウイスキーの楽しみの一つです。
ウイスキーセミナーを受けよう
ウイスキー文化研究所という団体があります。
そこでは定期的にウイスキーのセミナーを開催しています。
また、いろいろなバーやカルチャーセンターなどでもウイスキーのセミナーを実施したり、メーカー主催でブランドセミナーを実施しているケースも多いです。
レベルは様々ですが、まずは興味を持った題材のセミナーを一度受けてみてはいかがでしょうか?
ネットや書籍で調べられる一般的な情報だけでなく、写真や動画で現地の雰囲気を伝え聞く事が出来ます。
もちろんテイスティングもできるセミナーも多いので、ぜひ楽しんでください。(おいしい料理のマリアージュも楽しめたりします!)
ウイスキー文化研究所では、ウイスキーレクチャラーという資格があり、その資格を持っている人はウイスキーのセミナー講師を実施できるレベルですよというお墨付きをもらっている人たちです。
そういう人のセミナーなら安心して受けられますよね。
ちなみに私もウイスキーレクチャラーです。当店でもウイスキーセミナーを開催しています。
ウイスキーイベントに行こう
ウイスキーフェスティバルのようなイベントがここ数年で全国各地で実施されるようになりました。
ウイスキーフェスティバルには、メーカーや販売店の方が試飲ブースを開いています(一部有料試飲)。
そのイベント限定販売のボトルや、今後販売予定の未発売商品の先行試飲、日本にまだ輸入が決まっていないサンプルボトルなど、普段飲めない貴重なウイスキーがたくさん集まります。
また、ウイスキーは少人数で静かに飲むお酒のイメージですが、フェスティバルのような形で大人数で飲むのも楽しいです。
ただ、飲み過ぎには注意です。会場の壁にもたれかかって寝ている人も多数いますので。。。
ウイスキー検定やウイスキーコニサーの勉強をしてみよう
ウイスキー文化研究所主催で、ウイスキー検定、ウイスキコニサー資格試験という試験を開催しています。
ウイスキー検定は一般の方向けの試験で、3級、2級、1級、特別級があります。
ウイスキーコニサーは一般の方も受けることができますがどちらかというとプロ向けで、ウイスキーエキスパート、ウイスキープロフェッショナル、マスターオブウイスキーという資格試験があります。
問題は、歴史、地理、製造工程、蒸溜所の知識など多岐にわたり、ウイスキーの全体像を網羅しながら勉強することができるという意味で非常に効率よく勉強できます。
もう一歩踏み込んでウイスキーを勉強してみようかなという方、まずは「ウイスキー検定公式テキスト」を買って読んでみてください。
日本の蒸溜所見学をしてみよう
勉強するには実際に蒸溜所を見てみるのが一番。
スコットランドに行かずとも日本のウイスキーの蒸溜所は見学できるところが幾つもあります。
製造の現場で実際の機材を見ながら説明を受けると、より臨場感があり理解しやすくなるかと思います。
もちろん、見学が終わった後は試飲できるところがほとんど。
試飲を楽しんだ後は、おみやげコーナーです。
蒸溜所限定のウイスキーが買えるかも知れません。
美味しいと評判の高価なウイスキーを飲んでみよう
世の中には星の数ほどウイスキーがあり、ウイスキー好きがレビューをあげています。
中には万人が非常に高い評価をつけているウイスキーがあったりします。
そういったウイスキーは造り手も高額でも売れるとわかっているのでお値段が張ります。
でもそういうウイスキー、飲んでみたいと思いませんか?
最高に美味しいウイスキーとはどういうものか。
自分のものさしはできてきたとしても、他の人のものさしも参考にしてみるのはいかがでしょう?
かと言って、高額すぎるもの、例えば10万、20万するウイスキーはなかなか手が出ないもの。
それは本当に特別な日においておきましょう。
せいぜい5万円くらいのボトルなら、良心的なバーで注文したら1杯約7000円。
そういう高価なウイスキーはハーフ(半分の量)でオーダーできるお店が多いので、3500円。これなら手が出ないという金額ではなくなってきました。
非常に雑ですが、一時期話題になった評価の高かったウイスキーの例をあげておきます。
- 1993年蒸溜のボウモア
- 1976年蒸溜のトマーティン
- 25年熟成前後のアイリッシュウイスキー
すでに現在ではバーでも置いてあるところが少なくなってきている銘柄ですので、見つけたらぜひチャレンジしてみてください。
評価の低いウイスキーも飲んでみよう
私はバーテンダーなので、「このウイスキーは美味しくない」とは立場上強くは言えません。
なので「評価の低い」とあえてぼかして言わせていただきます。そしてあまり例を上げることができないのが残念です。
正直、造り手の方もプロなので、美味しくないウイスキーはなかなか出てきません。
単純に好みでは無いということもあるかと思います。
ただ、バーテンダーが「それはあまり私好みではないのでおすすめできませんよ」とこっそり言ってくれるかも知れません。
そういうウイスキーはある意味貴重なので、ぜひ飲んでみて、評価の低い理由を探してみたり、理由をバーテンダーに聞いてすり合わせたりしてみてください。
買ってしまった以上、売らなくてはいけないのが商売というもので・・・そして飲まなければいけないのが飲み手の宿命というもの・・・
「酒の1滴は血の1滴」という表現もありますのですべていただいております。
当店では、ちょっとがっかりだったウイスキーを「BAR Vision 三大ガッカリ」と称して、飲み比べセットとして販売していた過去があります。
最近はがっかりは引かないように注意しております。(あくまで私個人のがっかりですので、「これ好き」というお客様もいたりしました)
自宅用に買ってがっかりに当たってしまったお客様が、「有効活用してください」と当店に持ち込まれるケースもありますが、その場合は私のお疲れハイボールやカクテルの実験台、煮込み料理などの調味料になります。
オールドボトルを飲んでみよう
オールドボトルとはその名の通り古いウイスキー。
具体的な定義はありませんが、よく言われるのは「特級」表示があるウイスキーをオールドボトルと呼んでいるように思います。
1989年の酒税法改正により、ボトルに級表示をしなくてよくなりました
そこが一つの目安と言えます。
オールドボトルは何が違うかというと、現行のものよりシェリー樽の比率が高い物が多く、甘みが強いものが多いこと、その甘味が現行のボトルの甘みとは違い、優しくまろやかな風味に感じる傾向にあること、長期間瓶の中で保存されている事により、水分子とアルコール分子の会合が進みやわらかい味に感じる傾向にあることなどです。
今ではウイスキー人気でなかなか出てこなくなりましたが、古い酒屋さんなどで見かけることがあります。
ぜひ現行と飲み比べてみてください。
オールドにシェリー樽比率が高いボトルが多い理由としては、シェリー樽のほうがバーボン樽より歴史が古いことに起因します。
1949年にグレンモーレンジィがはじめてバーボン樽を購入し熟成に使用したということから、バーボン樽の歴史はかなり短いのです。
全部の蒸溜所制覇に挑戦しよう
土屋守氏の「シングルモルトウイスキー大全」という本はご存知でしょうか?
執筆当時に可動していた蒸溜所と、一部の閉鎖蒸溜所が網羅されている貴重な本です。
ちなみにバーテンダーは1人1冊買って読めと言われるバイブルだったり、調べるために置いてあるバーも多いと思います。
ぜひこの本を見ながら、飲んだことのない蒸溜所を無くすという目的で、全部の蒸溜所を制覇してみましょう。
この本の298ページ、299ページに掲載されているスコットランドの蒸溜所マップと一覧を縮小コピーして手帳に入れて持ち運び、飲んだ蒸溜所の番号を塗りつぶしていくという形で全制覇されたお客様がいらっしゃいます。
閉鎖蒸溜所になると置いてあるお店も少ないと思いますが、そういうときにはウイスキー専門のバーに行ったり、そのバーになければ、「どこだったら置いてそうですかね〜」と聞いてみるのもいいかと思います。
横のつながりで紹介してくれるかも知れません。
スコットランドの蒸溜所見学をしてみよう
ここまで来るともうやることといえば現地に行くしかありません。
スコットランドに行くには時間もお金もかかります。
なので効率よく、目的の蒸溜所を回りましょう。
スコットランドに行ったことのある頼れる知人がいるなら、まずはその方に相談です。
旅行会社も最近は蒸溜所ツアーを組んでいたりします。
また、「スコッチウイスキー・トレイル 蒸溜所に行こう!」という書籍がありますが、この本は蒸溜所見学を自力でする際のノウハウを書いた本で、大変参考になるかと思います。
最近ではSNSやオフ会などでウイスキー仲間を作ることもできますし、ますます人気になりそうです。