エディンバラのホリールード蒸溜所が生産を止め、ウィリアム・グラント社が2期連続の減益を発表し、ディアジオのキャメロンブリッジではストライキが始まっています。
一方で、輸出の統計や貿易環境には、回復の材料も出てきています。
蒸溜所が止まる理由は、10年先を読む難しさ

ホリールードは2019年に開業した、エディンバラ中心部で1925年以来の蒸溜所です。
共同創業者のロブ・カーペンター氏は、再開の時期は分からないと話しています。
消費者が慎重になっていて、ウイスキーは贅沢品なので影響をまともに受ける、という見方です。
背景には在庫の積み上がりがあります。熟成中のウイスキーは、10年前の4億リットル未満から約14億リットルに増えたという推計があります。
SWAの公式な数字ではありませんが、増産が続いてきたのは確かです。
スコッチは3年以上の熟成が必要で、主力の10年超なら売れるのは10年先です。
シングルモルトの需要は2022年から2023年にピークを迎え、その時期の増産分も熟成庫に残っています。蒸溜器を止めても設備は残るので、需要が戻れば再開できる状態は保てます。
同じ市況でも出る体力の差

ウィリアム・グラントの2025年は、税引前利益が3億3,700万ポンド(約710億円)で13%減、売上高は約4%減の17億5,800万ポンド(約3,700億円)。前年も30%減っていて2期連続ですが、利益率は計算上およそ19%あります。
ザ・フェイマス・グラウスとネイキッドモルトの買収、ガーバン蒸溜所の増強と、投資を続けた年でもありました。

イアン・マクラウド・ディスティラーズは対照的です。2025年9月期の売上は9%減の1億1,800万ポンド(約250億円)、税引後利益は53%減の546万ポンド(約12億円)で、利益率は5%弱。グレンゴインとローズバンクの年間生産量を30%減らしました。売上の大半を占める、長熟の原酒や樽単位のバルク売りが、英国の取引先で細っているためと説明しています。
新設のビジターセンターは、来訪者数に対して人員が多すぎて赤字になったとも述べています。BARRELでは1月に、スコットランドの蒸溜所を訪れる観光客が過去最高を更新していると伝えました。観光は支えになりますが、規模の読みを外すと負担にもなる、という教訓です。
ストが起きたグレーン蒸溜所は、ブレンデッドの土台
キャメロンブリッジは欧州最大級のグレーン蒸溜所で、ジョニーウォーカーなどブレンデッドの原酒を作っています。
2025年のスコッチ輸出額は53億6,000万ポンド(約1兆1,300億円)で、そのおよそ6割の32億ポンド(約6,700億円)をブレンデッドが占めます。
ストは9月28日に始まりました。削減対象は、会社側の説明で穀物蒸溜部門72人のうち10ポジションで、2つは欠員です。8月の時点では最大12人分と伝えられていて、数字が動いています。ディアジオは製品の供給に影響は出ないとしています。
争点は生産量です。会社は減産体制を維持するための削減だと説明し、組合は生産量を変えないまま人だけを減らす計画だと主張しています。

底打ちの材料と、過去の局面から学べること
まず現状の数字です。2025年のスコッチ輸出額は0.6%減、本数は4.3%減でした。
米国向けは、関税が始まった2025年5月から12月に本数で15%減っています。
材料は三つあります。
第一に、米国の関税です。4月30日に撤廃が表明され、7月24日に正式に撤廃されました。
第二に、インドです。
7月15日から関税が150%から75%に下がり、10年かけて40%まで下がる予定です。
第三に、中国で、2026年初めに関税を10%から5%に半減することで合意しました。
輸出の統計にも動きがあります。2026年上半期は、本数で約6%増、金額で約3%増という集計が出ています。
日本とインドは特に本数の伸びが大きく、日本の店頭にも追い風になりそうです。
ただ、2022年のピークと比べると本数はまだ約18%少なく、米国の関税撤廃の効果が出るのはこれからです。
過去の局面も参考になります。1980年代の「ウイスキー・ロッホ」では、20前後の蒸溜所が閉鎖されました。
1980年代末には日本でも蒸溜所の閉鎖が相次いでいます。当時は嗜好の変化が主因でしたが、今回は生活費の上昇による支出の絞り込みと、供給の積み上がりが主因という見方があります。
閉じた蒸溜所の原酒が、のちに希少なボトルとして高く評価された例も少なくありません。
樽を買う側にも影響が出ています。SMWSの運営会社は、2026年上半期の樽売りの利幅が、樽市場の軟化で薄かったと発表しました。
グレンウィヴィスでは、個人オーナーの樽の扱いが管財人の選任待ちになっています。
一方、Kythe(カイブ)のような新しい蒸溜所は、年内に樽の購入プログラムを始める予定です。
買う前に、蒸溜所が10年先まで続くか、売るときの出口があるかを確かめたいところです。
ホリールードのように止める蒸溜所もあれば、大手は人と生産量を調整する。やり方は違いますが、向かっている先は近いと思われます。
この手のニュースは大事なんですが、取り扱うのが心苦しくもあります。
ただしっかりと現実を見て、次に生かさなくてはならない。
そろそろ底打ちになることを願います。










