みなさんは相棒と言えるモノを持っていますか?
車やバイク、時計にカメラ、靴やヌイグルミもそうでしょうか…長年連れ添うと、とても愛着の沸くアイテムがあります。
ウイスキーに対するグラスもそれと同様。
人生で最も貴重と言っても過言ではない、「晩酌」という時間。
一日の締めくくりの重要なシーンに一番永く連れ添う相棒と言えば『ウイスキーグラス』。
愛すべき相棒は大切にしたいものです。
ウイスキーは飲み方によって様々な専用のグラスが存在します。
毎日何気なく手にしているグラスやカップに対して、なぜこんな形をしているのか、考えたことがありますか?
今回はウイスキーを楽しむにはどのようなグラスを選び、揃えれば良いのかを解説します。
後半にはビギナーさんにむけて、買っておいて損はないグラスも紹介します。
この記事の目次
ウイスキーを飲む際に大切なのは「香り」と「味」

ウイスキーのフレーバーをしっかりと堪能するには「香り」と「味」を極限にまで引き出すことが重要です。
蒸溜の方法や熟成年数、使用している樽などに目が行きがちですが、ウイスキーの味わいにおいて「超」がつくほど影響力の高いのが『グラス』です。
自動車や自転車で言えばタイヤ、カメラでいえばグリップ、服や靴であれば縫製、音楽で言えばドラムス。
本体を下支えし、安定感を与え、ウイスキー本来のポテンシャルを最大限に発揮させるための土台のような役割をします。
様々なウイスキーを飲んできましたが、グラスの影響力は短熟で安価なウイスキー程大きいように思えます。(短熟過ぎてもアルコールの辛さばかりが目立つのでNGですが)
30年熟成のウイスキーはどんなグラスで飲んでも美味しいですが、10年熟成のウイスキーはグラス次第でだいぶ実力が変わる気がします。
熟成10年前後のウイスキーといえば、毎日の晩酌に飲むくらいの価格帯。
その力を100%以上に持ち上げてくれるグラスを探してみましょう。
そもそもグラスでウイスキーの「味」は変わるの?
みなさんも子供の頃に聞いたことがありませんか?
「舌には味蕾(みらい)というものがあって、場所によって感じられる味が違う」

味覚分布図
この味覚分布の説は1990年前後に否定され、「舌はどの部分でもほぼ同じように味を感じるようにできている」と訂正されました。
しかしより最新の研究で味蕾は舌以外にも、軟口蓋や頬の内側、咽頭、喉頭にも存在しており「舌はすべての部位で甘味・塩味・酸味・苦味・うま味を感じられるが、それぞれの部位で強く感じる味覚がある(味覚分布地図が示すものに近い)」とも言われています。
つまり、「ウイスキーが最初にどこに流れ込むか」で「感じる味が変わる」ということです。
個人的には味蕾(風味)や歯茎/歯肉(アルコール感)へどのタイミングでウイスキーが接触するかによって変わるように感じています。
たとえば舌の先端~中央前部には茸状乳頭が、舌の脇には葉状乳頭が、舌後方部には有郭乳頭が分布しており、中央部分に分布する糸状乳頭には味蕾がありません。
細い飲み口のグラスを使い舌先のみをウイスキーが通るなら茸状乳頭しか反応しないので、味蕾の動員が少なくフルーティーに感じてしまうというカラクリです。
、、、、、とまぁ、細かい前置きはこのくらいにして、グラスの存在がどれだけ大切かは伝わったかと思います。
実際にどんなグラスが良いか解説していきます。
ウイスキーグラスの名称と機能を覚える
まずはウイスキーグラスの形状と各部分の名称を知りましょう。
ここではテイスティンググラス(ストレートグラス)を例に解説します。
A.リム「唇が触れるふちの部分」
ウイスキーの口当たり、まさに味を決めるグラスのふちにあたる部分です。
このリムが研磨され、薄く加工されていればウイスキーはスムーズに舌の上に流れ込みます。
さらにリムの直径(円周)が小さい方が、ウイスキーが揮発しにくく、香りを長く内部にとどめておくことができます。
リムがチューリップのように少しだけ外側に反っているものもあります。
こちらはより舌の先端にウイスキーが入り込みやすくなり、口内に細くウイスキーが侵入するので、マイルドな味に感じます。
B.ボウル(ボール)「ウイスキーの香りを溜め込む部分」
グラスの膨らんでいる部分です。
この形状からもおわかりのようにウイスキーの香りを包み、長く滞留させます。
このボウルのふくらみが大きいと、空気と多く触れ合う面積が広いのでウイスキーの放つアロマを高める効果があります。
ワイングラスも濃厚でフルボディなボルドー用のものはこのボウルが大きいですね。
なお、ボウルが大きければ大きいほどグラスを水平に傾けても中身が口に入ってきません。
つまりかなりグラスを鋭角に傾ける必要があります。グラスが傾き角度がつけば液体は舌の先端を超え、真ん中に流れていきます。
舌の中央より奥、苦みや酸味を感じる部分にフレーバーがゆっくりジワリと広がります。
逆にふくらみが小さいと、グラスをそこまで傾けなくとも飲めるので、舌先のやや奥、上あごとの空間に最初にウイスキーが当たります。
より甘みやフルーティーさを求める場合にはこちらがよいでしょう。
C.ステム「持ち手の部分」
ステムにも長いもの、短いもの、ついていないものと存在します。
ステムが長いとウイスキーに手の温度が伝わりにくく、過度に温まるのを防ぎます。
さらにウイスキーの色や粘度を観察するときも、手元が邪魔になりません。
ステムが長い方がスワリング(回転)もさせやすいです。
しかし洗浄する時は折らぬよう注意が必要です。
D.プレート(フット)「グラスの土台、支える部分」
土台部分です。
意外に忘れられがちですが、土台の外周が大きいほどグラスが安定します。
特にボウル部分が大きいグラスに関してはこの土台がしっかりしていたほうがバランスがとれるので、自宅で複数のウイスキーを飲む場合や、テイスティングイベントなどで多くのグラスが乱立しているような場ではそれなりに外周が大きいもののほうがよいです。
グラスマーカーなどをつける際も均衡がとれます。
立席でウイスキーを飲む際には、この部分を握って香りを嗅ぐこともあります。
ウイスキーグラスの選び方/おすすめ条件
①「香り」の溜めを作るボウルのあるグラスを選ぶべし

ウイスキーの香りはボウル部分がくびれてるほうが滞留します。香りが少しずつ立ち、逃しにくい形状になっているのです。
適度にふくらみのあるグラスを選びましょう。
かといって赤ワイングラスのようにボウルが極端に大きいものはあまりおすすめはしません。
試しに赤ワイングラスにウイスキーを入れて、ぐわんぐわん回転させてみるとわかるのですが、空気と触れ合う面積が大きいので、爆発的に酸化が進み香りは開きます。
短熟品だとアルコールが目に沁みますし、めちゃめちゃ傾けないと口に入ってこないのでとにかく飲みにくいです。味も水っぽくなる場合が多いのでおすすめしません。
ものすごい固いウイスキー(香りが開いていないもの)や香りが閉じ切ってしまっている古酒であれば使う場合もあるのですが、一般には赤ワイングラスほどの大きさは必要ないでしょう。
②「味」を決めるリムは薄くカット加工されたものがよい

リム、つまりグラスのふちは薄ければ薄いほど口当たりが良くなります。
このリムの薄さで味わいが5割増しくらいになります。
マジです。
のびたパスタの食感と、アルデンテのパスタの食感くらい差があります。
安価なグラスはこのリムが分厚くなります。多少奮発して薄いものを購入しましょう。
リーデルやツヴィーゼルのハンドメイド商品は流石の薄さでした。
③リムの口径は狭いものを

左の口径は51mm、右は39mm。
ウイスキーは口内へ流入する角度と速度で味がだいぶ変わります。
リムの口径(円周)が狭いほど、ホースの入り口のように小さく勢いよくウイスキーが舌の先端に当たります。広いと唇全体で受ける感じです。
狭いほうがアルコールのアタック(棘)を感じにくいです。
ボウルが広く、リムの口径が狭いと香りを逃がしにくい効果もあります。
④リムが開いている(反っている)かはお好みで

最後に飲み口のリムの部分が外側に反っている、ストレート寄りかはお好みです。
これはウイスキーの進入角度の差です。
反っているほうがウイスキーを舌の中央に運ぶのでソフトな感覚で受けれます。
リムがストレート寄りの場合は上唇から舌の先端を横に広がり、ダイレクトに味を感じます。
オーツカ個人的にはスコッチ以外にもバーボンもよく飲むため反っているほうが好みです。
バーボンは荒い味も多いので、ソフトな口当たりにしたいのです。
まずこのグラスを揃えておけば間違いはない

長々と語ったので選ぶポイントはご理解いただけたかと思います。
上記を踏まえて、まだお気に入りのウイスキーグラスを見つけていない方におすすめするグラスを紹介しておきましょう。
揃えるべきグラスは2つ。
最低でもこの2種類は揃えましょう!(番外編でハイボールグラスも追加しました)
ロックグラスこそ価格帯と扱いやすさが重要
バカラにダヴィンチ、オレフォスにボヘミアにカガミクリスタル。。。。。
有名ブランドを挙げればきりがないほど、ロックグラスは存在します。
僕だってまだ「これだ」というものにはたどり着いていません。
あなたが長くウイスキーの世界を探るほど、様々なロックグラスに出会うことでしょう。そして、購入するでしょう(笑)
つまり、『これだ!』と決めるのは将来で良いのです。
最初は軽量で取り回しが良く、使いやすい。安価で割れても精神的なダメージの低いものを選ぶべきです。
なおかつ、「おすすめウイスキーグラスの条件」は最低限満たしているものです。
それがこちら
『シェフ&ソムリエ スピリッツ ウォーム』

オーツカのTwitterにも頻繁に写ってますね(笑)既にリピートは4回目。
ええ、そうです、3回割りました。
気軽にオン・ザ・ロックスを楽しめる取り回しの良さ。香りの溜め込み、軽い口当たりも申し分ないです。おまけに安い。
そう、まるで仲の良い近所のあの娘。結婚はしないのだけれど、一番自分をわかってくれる信頼のおける異性の幼馴染。
ウイスキーのいろはを共に学んでいくにはピッタリの逸品です。
自分がこれから先見つけるであろう究極のロックグラスの礎を築いてくれることでしょう。
ウイスキーストレートは心地よい緊張感を保てるグラスで
ウイスキーを嗜むのであれば必ず持っていたほうが良いグラス。それがストレート(ニート)用のグラスです。
シングルモルト、ブレンデッド、どちらを飲むでも、そのウイスキーのポテンシャルを計るためには必須のひと品。
ちなみにストレートでウイスキーを楽しめる肉体の状態というのは、酩酊するずっと前です。正確にウイスキーの風味を感じ取れる飲酒量は一般的に3杯(90cc)程度が限界でしょう。
つまり”ある程度の緊張感”を維持したほうが良いのです。
たとえ自宅飲みだといえども、飲む気構えを作ってくれる、心地よい緊張感のあるグラスが必要です。
このストレートグラスに関してはかなり意見が分かれるところですが、様々なグラスを試した中で至高と思われるのがこの商品。
『リーデル(RIEDEL) “ソムリエ” コニャックXO』

リーデルにはシングルモルト専用グラスもありますが、ストレートにはこのコニャック用グラスが最適と思いました。
職人がひとつひとつ丁寧に、魂を込めて作り上げた珠玉の逸品は流石の一言。
ゆるりと開花するウイスキーアロマの微細な芳香を余すことなく堪能できます。
でも高い!最初にしてはとても高額です。
そう、職人手作りのハンドメイドグラスはウイスキー専門メディアをやっているオーツカだって躊躇する金額です。
そんな時は割とリーズナブルなマシンメイドが良いです。
同じリーデルのヴィノムシリーズのコニャックグラス。もしくはショット・ツヴィーゼルのノージンググラス。
マシンメイドなのでハンドメイドよりは精巧さに欠けますが、『おおお!今までと全然違う!ウイスキー美味しいいいい!』という感動は十分に与えてくれます。
どちらも1脚5,000円以下で手に入れる事が出来ます。
重要なのは美味しく飲めることなので、グレンケアンや国際規格のウイスキーテイスティンググラスを使うよりは遥かに良いと思います。
近いうちテイスティンググラスだけを紹介する特集記事も書こうと思います。→書きました!
余裕がある方はハイボールグラスもこだわってみて

番外編です。
晩酌の最初の一杯目はハイボールという方は多いかと思います。
手軽に飲めてこそのハイボール!どんなグラスで飲んでもハイボールは美味しいでしょ!と思っているそんなあなた!
その通りです。
確かに持ち手がついたジョッキでガブガブ飲むハイボールはたまらねぇ!…ですが、そんな方にこそ使っていただきたいのが、極薄のハイボールタンブラーグラス。
サイズ的にもおすすめなのはこちら。

濡れた刀身のごとき切れのある口当たりは「ハイボール」を「スペシャルなウイスキーソーダ」という”作品”に仕立て上げてくれます。
ごついジョッキでガツンと乾杯するのも良いですが、それは友人たちとのハッピーな宴に任せましょう。
あなたは日々の仕事に疲れている。喉も心も潤せる癒しの一杯が必要だ。
なめらかに、そしてすんなりと唇から喉に吸い込まれる、そんな「丁寧なウイスキーソーダ」が夜の貴重な時間を彩ります。
難点としてはやや耐久性に欠けるところです。
氷はふちを滑らすように入れること、洗う際は酔いが覚めてからにすることを守りましょう。(これはリムの薄いストレートグラスなども同じです)
個人的にはこれで作る氷無しハイボール(冷凍庫で冷やしたウイスキーと、冷蔵庫に入れたソーダを1:1で割る。量は120ccずつくらい。)が最強だと思っています。
ウイスキーグラスにはどんな種類があるのか
最後にウイスキーグラスにはどのようなものがあるのかをご紹介しておきます。

これらはすべてウイスキーを飲むときに使うグラスです(今回はカクテルグラスは含んでいません)。
左から番号順に、簡単に説明します。
ショットグラス
ウイスキーに限らずテキーラやリキュール、日本酒などのお酒を、そのまま楽しむためのグラスです。基本的に氷や水は加えません。
映画やドラマのワンシーンで、ショットグラスのウイスキーをキュッと飲み干す映像がよくありますね。
小型でアルコールがあまり揮発しないので、お酒そのままの味を楽しみたいときにおすすめです。
リムは厚いものが多く、口の中に手加減なしに入ってくるのでアルコールの味を強く感じやすく、香りの強いアメリカンウイスキーや、シャープな味わいのブレンデッドウイスキーが似合います。
テイスティンググラス
一昔前にはバーでウイスキーをストレートで注文するとショットグラスで出てきましたが、最近ではこのテイスティンググラスが主流です。
形状から別名「チューリップグラス」とも呼ばれます。
前述のとおりグラスのふくらみの部分(ボウル)にウイスキーの香りがたまるようになっています。
グラスのふちが広がっていますが、飲むときに一旦グラスのふくらみ部分にお酒がたまり、そこからふちを通りゆっくり口に流れていきます。
香りを楽しみつつ、お酒が急に流れすぎないような形になっているのです。
ウイスキー本来の香りと味を堪能できるグラスです。
ホットウイスキーグラス
ウイスキーは水割りや炭酸水割りだけではなく、ホットでも楽しめます。
寒い冬には体の芯から温まるのでお勧めです。
ウイスキーは見た目の色も楽しみながら飲めるので、このような耐熱ガラスのグラスを使用します。
自宅で作るときにはマグカップでも代用が可能です。
ロックグラス
ウイスキーといえばコレ、という、しゃれたバーのカウンターでダンディなおじさんが飲んでいるイメージでしょうか?
グラスの中には氷とウイスキーのみ。
少しづつ氷が解けていき、味の変化を楽しみながら飲むスタイルです。
グラスの底が厚く、どっしりしたものが人気のようです。
タンブラー
すべての飲み物に万能なグラス。細長い形状から炭酸が抜けにくいのでハイボールに重宝します。
水割りにもおすすめです。
また、先に紹介したショットグラスやテイスティンググラスでウイスキーをストレートで味わった時のチェイサー(間に飲む水)用のグラスもこのタンブラーです。
このように、飲み方によってグラスは様々に変わるのです。
いろんなグラスで楽しんで、ちょっとづつコレクションして、食器棚に並んでいるのを眺めるのもまた楽しみのひとつです。
グラスでウイスキーの味が変わることを知れば、グラス選びは楽しくなります。
是非この記事を参考に素敵なウイスキーグラスを見つけてください!