おすすめの飲み方・飲み進め方
「容姿端麗、才色兼備なアイリッシュ」それがレッドブレスト。
可憐なさえずりを聴かせてくれるヨーロッパコマドリの平均寿命は1.1年と短命ですが、それとは裏腹にレッドブレストは永きに渡り愛されるアイリッシュポットスチルウイスキーです。
アイリッシュウイスキー通から「最強」との呼び声も高いレッドブレストは、ボトルを何本も抱えて味わいの変化を感じつつ、何年かかけて長く楽しむ方も多い印象です。
おすすめの飲み方は、ストレート、もしくはトワイスアップ。
15年あたりはハイボールにしてもおいしいです。
シェリー樽との相性が非常によく、輪郭のはっきりしたウイスキーです。
リンゴや桃の甘やかな味わいが魅力的。
開封からしばらく経過するとナッツやオークのスパイシーさも際立ってくるので、ボトル一本抱え込んで、時間をかけて正面から向き合いたいウイスキーでもあります。
2020年に発売した27年のルビーポートカスクはそのキャッチーな芳香でファンを虜にしていました。
僕も一本買って向き合っている最中です(笑)
他にも限定販売の「ドリームカスクシリーズ」および、「オールシェリーのシングルカスク」などが世界的にも評価が高く人気です。
お値段が上がってきているアイリッシュウイスキーなので、まずは小瓶販売などで12年や15年を試してみるとよいでしょう。
好きな人は本当にハマる酒質です。
レッドブレストの発祥と製造場所、歴史の紹介
1939年、ブランドを創業したのはギルビージンで知られる英国のギルビー社でした。
ギルビー社は19世紀中ごろからワインやスピリッツを扱う輸入商社として活躍しており、一時期はグレンスペイ、ストラスミル、ノッカンドゥなどの蒸溜所を所有していました(レッドブレストと同時期に「スペイロイヤル10年」をリリースしています)。
1903年にレッドブレストの前身となる「キャッスルグランドJ.J.リキュールウイスキー」を発売。
そして1912年8月に「RED BREST J.J.リキュールウイスキー12年」を販売しました。
「レッドブレスト」という名前自体は、鳥のRobin Redbreast(ヨーロッパコマドリのこと※15世紀には種の人名を当てることが流行したためロビンとなっている)を指しており、大の鳥好きであった当時のギルビー社会長に由来しています。
概要欄で前述しましたが、ラベルに描かれたヨーロッパコマドリは、春を告げる鳥としても知られており、胸が赤いのは磔にされたキリストの頭のイバラを抜いたのがこのコマドリとされているからだそうです。
原酒は全てジェムソン社が所有するダブリンのボウストリート蒸溜所が提供するピュアポットスチルウイスキーを100%使用。
販売直後からアイルランドで人気のウイスキーとなります。
レッドブレストが販売を開始した直後の1920年代のアイルランドは独立戦争真っただ中。
政治的にも経済的にも混乱の時期で、人々は貧しい暮らしを強いられており、上質なウイスキーを飲める層などというのは限られていました。
その中でも聖職者は地位が高く、比較的裕福な暮らしをしていたので、「牧師や神父の酒棚には、必ずレッドブレストがある」とも言われていました。
これがプリーストズ・ボトル(司祭の瓶・牧師のウイスキー)と呼ばれた所以で、当時の牧師は美食家であることでも知られていました。
原酒を提供していたボウストリート蒸溜所は1960年代に閉鎖、1971年まで原酒の提供が続きましたがギルビー社がレッドブレストをボトリングしたのは1985年が最後でした。
現在のレッドブレストはIDG社がギルビー社よりブランドの権利を買い取り復刻されたもので、使われている原酒は新ミドルトン蒸溜所でつくられるジェムソン社製のアイリッシュ・ポット・スチルウイスキーとなります。
レッドブレストの製法
ミドルトン蒸溜所ではモルトウイスキー、ポットスチルウイスキー、グレーンウイスキーの3種類が造られています。
仕込み水はダンゴニー川の水を使用。
ミドルトン蒸溜所ではこの10年で拡張を行い、容量70〜80万ℓの巨大なスチルが10基設置されています。
これらは全てポットスチルウイスキー用のスチルで、それとは別にグレーン用に7基のスチルが設置されています。
グレーンウイスキーを造る連続蒸溜機も近代的な6棟式アロスパス式のものと旧式のコフィ式のもの2タイプが稼働しています。
原料の比率や蒸溜方法を変えながら数十種類の原酒がつくられ、レッドブレストにはこの中から比較的ヘビーな酒質のウイスキーが使われています。
ポットスチルウイスキーのレシピは大麦が60%で大麦麦芽が40%、グレーンウイスキーにおいてはレシピの殆どがトウモロコシに占められています。
現在ミドルトンではポットスチルとグレーンを合わせると年間7,000万ℓものスピリッツが生産されており、こちらは世界一の生産量を誇ります。
近年のウイスキーブームに遅れをとることなく、ミドルトン蒸溜所は世界の需要に応えるため繰り返し設備投資を行い、他のどの蒸溜所よりも大規模なものへと進化しました。
しかし、これにより弊害も生じました。
規模を拡大し過ぎた結果、小規模生産を必要とする製品開発や蒸溜方法のテストが行えなくなったことです。
大規模な設備でテストを行い、万が一失敗したときのロスや損害の大きさは計り知れません!
そこで2015年に誕生日したのがミドルトンの敷地内にあるマイクロ蒸溜所です。
こちらは以前蒸溜所していたフィリングステーション(給油所)兼倉庫を改造して創られました。
糖化や発酵は本蒸溜所で行い、出来上がったモロミをマイクロ蒸溜所へ持ち込み、蒸溜方法をテストし、原酒の作り分けを行います。
本蒸溜所では3回蒸溜が行われていますが、マイクロ蒸溜所では2回蒸溜も試験的に行われているそうです。
他にも原料の穀物比率を変えたりしながら3基あるマイクロ蒸溜所のスチルで11種類の蒸溜方法をテストしています。
スチルのサイズは
- 初溜…2,500ℓ
- 後溜…1,500ℓ
- 再溜…1,500ℓ
で全てフォーサイス社製のものが使われています。
リリース当時レッドブレストのブレンドは、シェリー樽2に対してバーボン樽1の割合でつくられていましたが、現在は昔のブレンドよりもバーボン樽の割合が増えていると言われています。
レッドブレストの種類/ラインナップ
レッドブレスト 12年
こちらはがレッドブレストのスタンダードボトル。
昔ながらのアイルランドスピリッツを忠実に表現した、「シングルポットスチル アイリッシュ・ウイスキー」です。
熟成樽はオロロソ・シェリー・バット樽とバーボン樽が使われており、12年以上熟成させた原酒が使用されています。
香りはどっしりとした濃厚なバニラ、ブドウやベリーのフルーティ、奥にオークのスパイシーさも潜んでいます。
味わいも香り同様のブドウとベリー系のフルーツ感、深いバニラの甘み、カスタードクリーム、他にもキャラメルナッツ、ヌガー。
中盤から後半にかけてスパイシーさが現れ甘いだけではない、複雑な風味を楽しめます。
余韻も長く完成度の高い一本です。
他のアイリッシュウイスキーと比較するとややお値段が張りますが、試しておいて損のない一本。
レッドブレスト 15年
15年もののレッドブレストのフラッグシップボトル。
熟成にはオロロソ・シェリー・バットとバーボン樽が使用されています。
香りは12年よりも豊潤でリッチ。
瑞々しく甘やかな赤リンゴ。そしてベリー系フルーツ、カスタードクリーム。
奥に僅かなハーブ感も漂い、スパイシーさも健在です。
味わいはバニラの効いたフルーツケーキ。マジパンにカスタードクリーム、バタートースト、枝付きレーズン、ベリーのタルト、グラマラスでオイリー。
重厚感もしっかりあり、ウッディな余韻も長く楽しめるバランスの良い1本で、「レッドブレスト通」は21年よりもこちらを好む方も多いです。
レッドブレスト 12年 カスクストレングス
2011年にわずか68樽のみアイルランド、フランス、ドイツの3ヶ国でリリースされたカスクストレングス仕様の12年です。
樽の構成は12年と同様オロロソ・シェリー・バット樽とバーボン樽ですが、ノンチルフィルターでボトリング。力強い味わいが魅力です。
バッチ18のラベルまでは手前に大きく「12」の数字が入っていましたが、バッチ19より変更がありました。
開封時のアロマは15年ほどないと感じました・赤リンゴ、クリームブリュレ、ミルクチョコレート。さらにはココナッツの風味をまとっています。
しかし時間経過でよりハーバルな香りが高まり、ローズマリーやジュニパーのような香りも。
味わいは粘性が高く、ドライでフルーティー。パッションフルーツやマンゴー、うっすらとパパイヤ。中盤からはバニラとミルクチョコレートの中にオークのスパイス。
フィニッシュは非常にロングで、甘くスパイシー。ややミネラル感があります。
濃厚でフルーティーな味わいのため、加水したほうがより複雑さを感じ取れます。
レッドブレスト好きなら飲まずにはいられないカスクストレングス仕様。後悔のない味わいです。
レッドブレスト ルスタウ エディション
こちらはボデガス・ルスタウのオロロソシェリー樽でフィニッシュを行い、シェリー樽熟成の特徴に独特のひねりが加わったレッドブレスト。
ボデガスとはワインの醸造所のこと。つまり「ルスタウ醸造所」ってことですね。
ルスタウ社は、1896 年に一人のアルマセニスタによって設立されたスペイン屈指のシェリーメーカーです。1945年から自社ブランドのボトリングを開始し、1980年にはプレミアムシェリーの代名詞にもなっている「アルマセニスタ・シリーズ」を発表しています。
最近では秩父蒸溜所ともタッグを組んでいましたね。
香りは丸く、アルコールアタックは少ない。
レーズン、アプリコット、バニラ。鼻抜けにはジンジャー、リコリス、ナツメグ、そしてシェリー酒。面白い。
味わいはレッドブレストらしいクリーミーさとスパイシーさがあります。ルスタウのオロロソシェリー樽が効いているのか、非常に甘く、パイナップルやトロピカルフルーツを感じます。その後シェリーとミルクチョコレート。
フィニッシュはミディアムロング。スパイシーでコショウとビターなオレンジの存在を認識できます。
レッドブレスト 21年
こちらはレッドブレストの上位ラインナップ。2013年より販売が開始されました。
オロロソ・シェリー・バットとバーボン樽で21年以上熟成された原酒が使用された贅沢な1本。
香りはマンゴーやパパイヤなどのトロピカルフルーツ、アーモンド、レーズン、プラムのフルーツ感。少しワクシー。ネガティブ要素を全く感じさせないおいしい香りです。
味わいは柔らかなバニラの甘みと上品なベリーのジャムが舌に広がり、発酵バターの効いた甘いクロワッサンを食べているかのよう。
中盤からはドライプラム、白桃、それがハーブやウッドのスパイスと混ざります。
フィニッシュはクリーミーで暖かく、長い。サルタナレーズンの余韻。
リッチな甘みとスパイシーさが絡み合う複雑な風味を楽しめるボトルで、苦みや乾いた印象は一切ありません。さすがの一言。
レッドブレスト 27年 ルビーポートカスク
こちらは2020年にリリースされた限定品です(54.6% 2019年ミドルトン蒸留所元詰め バッチB1/19)。
バーボン樽とオロロソシェリーカスクで熟成した原酒をブレンドし、更にルビーポートカスクにて後熟させた珠玉の1本。
香りは非常に複雑。ひと嗅ぎで笑みがこぼれます。
ややケミカルさを伴ったトロピカルフルーティ。ブレッドオレンジ、ダークベリー、白桃、マンゴーのトロピカル、サルタナレーズン、イチヂク、アプリコット、バニラエッセンス。後半はシナモン、クローブ、クルミ、トーストしたオーク。
味わいはリッチで熟したリンゴとベリーの甘み、ダークチェリー、グァバ、マンゴーのトロピカル感、後半にミントのハーバルさ、ザクロとカカオのビター。乾燥したココナッツパウダー。
温かみのあるウッドスパイス、そして長い長い余韻。
レッドブレストの個性という個性が際立つ芸術的なボトルです。
レッドブレスト 32年 ドリームカスク
こちらは1985年から26年間リフィルのバーボン樽で熟成させた原酒を更に6年間ファーストフィルのシェリーバットで追熟したレッドブレスト。
レッドブレストの公式サイトメンバーシップ「ザ・バードハウス(The Birdhouse)」会員限定で販売された最長熟、ハイエンドのラインナップとなります。まさにハイエンド、ラスボス感のある風味を纏ったボトルです。
ドリームカスク自体はここ最近毎年発売されていますが、今後どうなるかは不明です。
たまーにオークションなどで見かけます。
ちなみに新生レッドブレストのラベルには飛び立つコマドリ(ロビンちゃん!)が描かれおり、12年、ルスタウ、12年カスクストレングス、15年、21年の順に並べると、コマドリが飛び立つさまがデザインされているのがわかります。
作画はアイルランドのイラストレーターDeniseNestor。かわいいですね。
ざっくり覚える!
レッドブレストはアイルランドでつくられているシングルポットスチルウイスキーです。
ポットスチルウイスキーとはアイルランド独自の製法でつくられたウイスキーを指し、原材料にモルト(大麦麦芽)のみならず未発芽の大麦、その他グレーンを原料に使用し、単式蒸溜器で3回蒸溜してつくられます。
特徴はその豊満さ、コクと旨味の強さにあります。
アイリッシュらしい瑞々しい果実感の中に、どっしりとしたクリーミーさとスパイシーさを併せ持ちます。
ブランド名の「レッドブレスト」とは胸の一部分が赤いコマドリのこと。
春を告げる鳥とも言われており、春先になるとやってきてその美しい声を聞かせてくれる、英国の国鳥にも認定されている鳥です。
コマドリの胸は昔、磔になったキリストの頭に巻かれていた茨のトゲを抜いたときに血がつき赤く染まったと…いう神話からとられたとのこと。
そのためコマドリは昔から聖職者の鳥としても知られておりその名前を冠したレッドブレストは「聖職者=牧師のウイスキー」とも呼ばれてきました。