おすすめの飲み方・飲み進め方
天敵である雷鳥の屋台骨を支える、偉大なる猫の手「グレンタレット」。
ハイランド特有のオーツ麦とバニラの甘い香り、柑橘のアロマが特徴で、水飴のようなクリーミーでオイリーなテクスチャと金柑シロップの味わいを持っています。
「ナチュラルで無垢な雰囲気」と言えば聞こえはいいですが、際立った個性があるほうではなく、樽に染まりやすい印象です。
おすすめの飲み方は数滴の加水。クリーミーさが強まり、味わいもけっこう伸びます。
シェリーカスクはぜひストレートで。
あまりタンニンや酸が主張しない上品なボトルで、そっと添えるようなシェリー感が好きな人にはとてもおすすめです。
1980年代に流通したオールドボトルには「グレンタレット15年」や「グレンタレット1967」がありますが、現在のものとは異なり、やや石鹸のような香りがして、ワクシーな印象です。
2019年3月にシルヴィオ・デンツ氏率いるアート&テロワール社に買収され、「ラリック傘下で高級路線転換か!?」と思っていた矢先、ついに2020年9月に新パッケージを発表!
日本には2020年2月の時点でまだ入ってきていませんが、英国、フランス、ドイツ、オランダ、スイス、ニュージーランド、中国、台湾あたりでは発売されています。
トリプルウッド、ピートスモーク10年、12年、15年の4つのコアレンジと、25年、30年のリミテッドエディションをリリースするのですが、ブランド全体をボトムアップさせるような自信作のようです。
グレンタレットの発祥と歴史
グレンタレット蒸溜所は南ハイランドの街、パースから西に20kmほど行ったクリフという街の郊外にあります。
グレンタレットは250年以上も前に建てられたスコッチ最古ともいわれる蒸溜所で、なんと創業は1775年。
ストラスアイラが1786年創業でストラスミルが1772年創業ということを考えると、本当に古参の蒸溜所のひとつといえます。
ちなみに密造酒を製造していた時代を含めると、1717年から存在している記録が残されています。
1763年付の賃貸契約書に「サロット蒸溜所、数年に渡って賃貸料が未納」という悲しい事実が書かれています(笑)。これが恐らく最初の蒸溜所名なのでしょう。
1818年になると、当時の町から名前をとり「ホッシュ蒸溜所」と名乗り酒造免許を取得します。
グレンタレットの語源は諸説ありますが、「乾いた」を意味するゲール語”Turraid”が有力説のようで、近くを流れるタレット川が夏になると水位が下がり川辺が乾くことから名付けられたのだそうです。
一帯を流れるタレット川の急流はウイスキー作りに適しているため、谷間では昔から密造酒の製造が盛んに行われていたようです。もちろん現在のグレンタレットでも仕込み水にこの川の水が使用されています。
1887年には、ヴィクトリア朝時代のジャーナリストであり『英国のウイスキー蒸溜所(1887年)』の著者、アルフレッド・バーナードが蒸溜所を訪問しており「新しい流行を取り入れる気配はなく、設備も旧式のものを使っている。容器類にはすべてアンティークな装飾が施されている。」との記述が残っています。
そして19世紀後半に現在のグレンタレットに改称されました。
20世紀のウイスキー不況に当てられ、グレンタレットは1923年から1959年まで、36年もの間閉鎖されます。
そして1957年、グレンタレットに転機が訪れます。
閉鎖中だったグレンタレット蒸溜所を買い取ったのは、ジェームズ・フェアリー。
大のウイスキー愛好家だった彼は、約2年かけてボロボロだった蒸溜所を改修し、見事再開させます。
それだけでなく、彼はスコットランドでいち早く、蒸溜所内にビジターセンターを設置したアイディアマンとしても知られています。
今では当たり前のように蒸溜所に併設されるビジターセンターですが、当時、蒸溜所にビジターセンターを置くのは非常に画期的なことだったのです。
ジェームズの読みは正しく、充実したビジターセンターを置くことで年間15万人もの観光客が訪れるようになり、大ヒットとなります!これはスコットランドではグレンフィディックに次いで2番めのビジターセンターで、1964年にはこの噂を聞きつけた英国首相のヒューム卿も訪れました。
ちなみにグレンタレットのビジターセンターにはテイスティングカウンターがあり、オフィシャルのグレンタレットはもちろん、原酒提供しているフェイマスグラウスのテイスティングもでき、これらを飲み比べることができます。
そこには車で来場された方のためにお持ち帰り用の小型パックまで用意されています。素晴らしいホスピタリティ。なんとも気が利いています…!
1990年にはハイランド・ディスティラーズ(現エドリントン傘下)が蒸溜所を買収し、2002年にはエドリントンが220万英ポンドを投資し、蒸留所内にフェイマスグラウスのビジターセンター「フェイマスグラウス・エクスペリエンス」を建設し、グレンタレット蒸溜所は地元の観光にも貢献するような大きな存在となっていきます。
2019年3月にはスイス人実業家シルヴィオ・デンツ(Silvio Denz)氏が率いるアート&テロワール(Art & Terroir)社が買収。
アート&テロワールは、フランスの他にイタリアやスペインなどにワイナリーを複数所有する優良企業ですが、ウイスキー蒸溜所を傘下に収めるのはこれが初めてとのこと。
どうしてだろうな~?と思っていたのですが、どうやらオーナーのデンツ氏は、高級クリスタルメーカーのラリック社を傘下に持つラリック・グループの会長も務めているそうで。
どうやらマッカランでブレンダーを務めていたボブ・ダルガーノ氏とクリエイティブディレクターを務めていたケン・グリアー氏にコンタクトを取り、シングルモルトブランドとしてのグレンタレットを再出発させる計画があるようですね。
高級路線で生まれ変わるグレンタレットが今後見れるかも、、、!
ウイスキーキャット「タウザー」の伝説
その名を知らしめたのは蒸溜所で飼われていた一匹の雌猫でした。
彼女の名前は「タウザー」といいます。
スコットランドの蒸溜所では、原料となる大麦を多量に保管しているため、放っておくとネズミが大量発生してしまいます。
「天使への分け前(揮散)ならまだしも、ネズミへの分け前はNG!」
というわけで多くの蒸溜所ではネズミ対策として、敷地内に「ウイスキーキャット(ディスティラリーキャット)」と呼ばれる番犬ならぬ番猫を飼っていました。
タウザーはグレンタレット蒸溜所に飼われていたウイスキーキャットで、23歳11ヶ月という人生の中で、28,899匹ものネズミを退治したのです!。
この桁外れの記録は世界で認められ、ギネスブックにも掲載されました。
「グレンタレット蒸溜所のタウザー」の名は、たちまち世界中に知れ渡った…というわけです。
スコットランド国内ではウイスキー蒸溜所としてもそこそこの知名度があったグレンタレットですが、それを世界レベルに引き上げたのは他ならぬウイスキーキャット「タウザー」の功績が大きかったといえます。
タウザーは1987年3月20日に亡くなりましたが、その訃報は全英で報道され多くの人々が悲しんだといいます。
余談ですがタウザーはネズミ以外にも敷地内にいるウサギやキジなども捕らえて食していたそうですから…なんとも野生の血が濃い猫だったのかもしれません。
現在はグレン君とタレット君がいるぞ!
— ヒデイシ/ Don’t tell Mama (@whisukej) August 2, 2021
グレンタレットの製法
グレンタレットは知名度の割に小規模な蒸溜所で、1度の仕込みに対して使用する麦芽は約1トン。
1週間に10回程度の仕込みしか行われません。
マッシュタン(糖化槽)には自動攪拌機が取り付けられておらず、人力による攪拌作業が今でも行われています。
発酵槽はオレゴン松製のものが4機。
ポットスチルはボール型で初溜1基、再溜1基の計2基が取り付けられています。
スピリッツの年間生産量は現在215000ℓと少量で、将来的には年間50万ℓを目指しています。
またグレンタレットにはフェイマスグラウスのキーモルトとしても使われており、蒸溜所の入り口には同ブランドのトレードマークである雷鳥の奇抜なオブジェが設置されています。
グレンタレットの種類/ラインナップ
グレンタレット 10年
ノンピートの麦芽を使用、アメリカンオークのシェリー樽で熟成させた10年もの。グレンタレットのスタンダード品です。
香りは麦芽クッキー、バニラクリーム、蜜蝋、
口に含むとややとろみのあるライトボディ。味わいは熟れたオレンジやクッキー、ラムレーズン、後半にかけてカカオの効いたビターチョコ、ややオイリーさも感じます。
ボディに厚みがあり、複雑な風味を持つレベルの高いフラッグシップボトルとなります。
グレンタレット トリプルウッド エディション
こちらは
- ヨーロピアンオークのシェリー樽
- アメリカンオークのシェリー樽
- バーボン樽(アメリカンオーク)
上記3種類の樽で熟成した原酒をヴァッティングしてつくられたボトル。
麦芽は全てノンピートのものが使用されています。
香りはレーズンを代表するドライフルーツ、麦菓子、マーマレード、ミルクチョコ。
口あたりはクリーミーで柔らか。シロップのよう。
味わいはバニラ、マジパン、完熟オレンジ、枝付きレーズン、グローブ、ウッドスパイス、奥にほんのりとココナッツ。
ボディはしっかりしており、余韻も長く、よく出来たボトルです。
グレンタレット ピーテッドエディション
こちらはラインナップの中で唯一、ヘビリーピーテッドタイプの麦芽を使用して造られたボトル。
グレンタレットが創業した1775年に作っていた味わいに近い味わいのボトルといわれています。
香りは麦芽クッキー、スモークしたドライフルーツ、焼いたオレンジ、ややオイリー。
味わいは炭火で焼いたフルーツケーキ、バニラクリームやラムレーズンの甘味とマジパンの香ばしさ、ややスパイシー、後半にかけてスモーキーさが鼻腔をくすぐります。
グレンタレットらしいフルーティーさに、ピートの効いたスモーキーさとスパイシーさが加わった重層感のある味わいに仕上がったボトルです。
グレンタレット シェリーカスク
こちらはヨーロピアンオークのシェリー樽にて熟成させた原酒だけを使用して造られたボトル。
香りはシェリーならではのラムレーズン感、バニラエッセンス、薔薇の花のフローラルさ、ほんのり蜂蜜。
味わいはラムレーズン、ブドウ、カシス、ウッドスパイス。とても上品でリッチ。
甘みが強いかと思いきや、後半からヨーロピアンオークならではのスパイシーさが現れる複雑な味わいのボトルです。
グレンタレット 12年(オールドボトル)
こちらは90年代に流通していた当時のフラッグシップ的なボトル。
12年もののグレンタレットです。
香りはバーボン樽からくる豊潤なバニラ、ラムーズンのまったりとした甘み、スコーンの香ばしさ。
口に含むと柔らかな口当たり。
味わいも香り同様の甘みと香ばしさ、後半にハーブ感とスパイシーさ、ほのかなオイリーさが現れます。
フィニッシュは短いですが、リンゴやオレンジなどの甘さをまとっています。
現在のフラッグシップ10年より2年長く熟成されている他、ヴァッティングレシピの違いもおそらくあるのでは…?などと色々考えさせられるロマンの詰まった味わいのボトルです。
2002年にフェイマスグラウス用の最新鋭のビジターセンターを作った際に、タウザーグッズはほとんどなくなってしまったみたいですね。雷鳥と猫って天敵同士だった気がしますが、そういうのはあんまり気にしないのでしょうか?
しかし新パッケージはとても高級感がありますね。さすがラリック。お味にも期待!
ざっくり覚える!
グレンタレットはスコットランドのハイランド地方でつくられているシングルモルトウイスキーで、とても小規模ながら、世界中で知られる有名な蒸溜所です。
雷鳥がトレードマークのブレンデッドウイスキー「フェイマスグラウス」のキーモルトで、グレンタレット蒸溜所の看板や入口オブジェにはトレードマークの雷鳥が描かれています。
一昔前にはギネスブックに掲載された「タウザー」というメス猫のエピソードでも有名でした。
グレンタレット蒸溜所は近年までエドリントン社が所有していましたが、2018年に売却。
その後フランスやイタリア、スペインなどでワイナリーを複数所有するアート&テロワール(Art & Terroir)社が買収し現在運営されています。この会社、あの高級クリスタルブランド「ラリック」の傘下なのです。
2019年頃より大規模なリブランドや蒸溜所の拡張工事に着手しており、非常に高級感のあるラインナップに生まれ変わりました!