アイルランド政府が、アイリッシュウイスキーの技術仕様書見直しに向けた意見公募を実施しています。
締め切りは9月4日。
今回の公募には、アイリッシュ・ウイスキー協会(IWA)とアイリッシュ・ウイスキー・ギルド(IWG)の双方が改定案を提出しており、ポットスチルの原料規定や熟成樽の記述など、カテゴリーの根幹に関わる変更が焦点になっています。
何が変わろうとしているのか

現行の規定では、アイリッシュ・ポットスチルウイスキーのマッシュビルは、モルト大麦30%以上、ノンモルト大麦30%以上を満たした上で、残りの「その他穀物」は最大5%までしか使えません。
IWAの改定案は、この上限を30%まで引き上げ、対象をオーツ麦・小麦・ライ麦に限定する内容です。
ほかにも改定案には、熟成樽の樽材を「オーク」に限定する表記を外すこと、ポットスチルの定義から「現在はノンピート」という一文を削除すること、そしてグレーン・アイリッシュウイスキーのモルト大麦使用上限を30%から40%に引き上げることが盛り込まれています。
いずれも、2014年に制定された現行の技術仕様書が前提としていた造り方の幅を、意図的に広げる方向の改定です。
なぜ今、広げるのか

ディングル蒸溜所の経営責任者エリオット・ヒューズ氏は、現行規定について「実質的に1軒の蒸溜所しかポットスチルを造っていなかった時代に書かれたもの」と指摘しています。
この10年でポットスチルを手がける蒸溜所は大きく増え、造り手の数だけ考え方も増えました。
ヒューズ氏は、規定を広げることについて「新しい蒸溜所が加わるほど、異なる考え方も入ってくる。それほど物議を醸す話ではない」と話しています。

これは規制緩和ではなく、伝統への回帰でもあるという声も目立ちます。
キロウェン蒸溜所のブレンダン・カーティ氏は「イノベーションというと何か新しいものを発明することだと思われがちですが、アイリッシュウイスキーの世界では、様式が画一化されてしまう前に先人たちがすでにやっていたことを再発見する作業であることが多いのです」と語っています。
古いマッシュビルの復活に取り組むボアン蒸溜所のような事例を、ヒューズ氏は「おそらくイノベーションであると同時に、伝統への回帰でもある。この文脈では、ほとんど同じことだ」と評しており、規制緩和と伝統回帰が両立するという今回の改定案の性格をよく表しています。
大手も、すでに伝統回帰を始めている
このタイミングで、ジェムソンが米国向けに新作「ディスティラーズ・バッチ」を発表しました。
シングルポットスチルのアイリッシュウイスキーで、1826年にジョン・ジェムソン2世が手書きで残したマッシュビルの記録にヒントを得たリリースだといいます。
マスターディスティラーのケヴィン・オゴーマン氏は、この記録を「今も蒸溜所の保管庫に残る、200年前のジェムソンの原点」と紹介しています。

熟成に使われるのは、エクスバーボン樽、オロロソシェリー樽、そして新樽であるヴァージン・アイリッシュオーク、ヴァージン・ヨーロピアンオーク、ヴァージン・アメリカンオークの計5種。
樽材の記述を緩める今回の改定案の方向性とも符合する内容です。度数46%、9月から全米の酒販店で希望小売価格49.99ドル(約7,990円)で展開される予定です。
業界最大手のジェムソンがこのタイミングで200年前のレシピに立ち返るという動きは、今回の技術仕様書改定案が単なる規制論議ではなく、業界全体が向かおうとしている方向性を映していると見てよさそうです。










