こんにちは、オーツカです。
気温も下がり、少し冬の匂いがしてきました。
ウイスキーが美味しくなる季節ですね。
2022年も暮に向かって加速していきますが、今年はウイスキー業界激動の年となりました。
蒸溜所は国内外問わず、ボッコボッコとタケノコのごとくできまくり、ウイスキーの価格高騰は止まることを知りません。
同時にパンデミック後の世界的インフレ、ロシアのウクライナ侵攻での原材料不足などが懸念されています。
ジャパニーズブームも少し落ち着いてきたかなと思う昨今ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?
今回は久々の業界人インタビュー企画。
BARRELで稀に行われている対談っぽいやつです。
ゲストにはボトラーズ事業を展開されている名バイヤー「北梶 剛」氏をお呼びしました。
ボトラーズ事業や、ウイスキーインポーターというお仕事に興味を持っている読者は結構いらっしゃると思うので、根掘り葉掘り聞いていきたいなと思います。
そして昨今の国内外のウイスキー需要や課題点など気になる点をざっくばらんにお話しできればと思います。
ではではいきまーす。
自己紹介
RUDDER LTD.代表の北梶です。
今日はよろしくお願いします。
弊社は大きく3つのビジネスを展開しています。
- インディペンデントボトラーズブランドとしてのオリジナルボトリングの販売。
- 実店舗とオンラインの酒販店、ウィスキーショップ”THE ULTIMATE SPIRITS“の運営。
- 輸入卸売業者としての海外ブランド(イタリア、スコットランド、シンガポールのボトラーズブランドやジン、ウォッカ)の輸入販売、そして国産ブランド(主にスカーレット)の卸売販売。
ひとつめのボトラーズビジネスとしてのカスク購入をメインに、国内外の商品仕入、数量や価格の決定、ブランドや商品ごとのブランディングやプロモーションを企画するのがメインの仕事になります。
だいぶ多岐に渡っていますね。
ブランディングやプロモーションもするってことは市場調査も北梶さんがやっているんですか?
はい。
ウイスキーを選ぶにあたっては、日頃からお客様のニーズや意見に耳を傾けることはとても重要です。
BARへ直接出向くことで、バーテンダーやバーを訪れる愛好家、卸売先となる酒販店の皆様と意見交換を行うことが多いです。
1人のウイスキー愛好家としての目線を持つことは、大事にしています。
仕事のコンセプトや、楽しいと思える瞬間
他に北梶さんがお仕事で大切にしているコンセプトなどを聞かせてください。
基本的にウィスキーは飲んで楽しむ「嗜好品」です。
なので。それを扱う自分も日々楽しさが伝わるようには努力していますね。
あとは、ウイスキーはキングオブスピリッツと呼ばれているので、やっぱりこう王道的なもの。歴史とか、伝統とか、そういった文化的な背景ってすごい魅力的だと思っています。英国紳士のようなカッコよさというのでしょうか。そういうものを伝えたいなと思っています。
あーなんかわかります。
北梶さんのファッションスタイルにも出ていますよね。
こう、クラシカルで、ジェントルというか。
今は蒸溜所をはじめ、ボトラーだったり、インポーターだったり、バーテンダーだったり。
ウイスキーを扱う業種もたくさんあります。
その中で僕らのような酒販店も、将来の職業の選択肢に入れてもらえるように努力しているつもりです。
職業っていうのはやはりかっこよくないとなかなか目指してもらえませんから、「ウイスキーに関わる仕事は楽しくてかっこいい、そしてお金もしっかり稼げる」ということを見せていきたいですね。
若者が目指してくれると、業界全体の発展にも寄与しますからね。
そういう想いが伝わる瞬間が、やってて楽しいということですかね?
そうですね。充実感を感じますね。
この業界のつらいところ
逆につらいことってありますか?
先ほど伝えた僕のウイスキー観というか、意図が思うように伝わらない時はちょっと残念に思いますね。
最近は投機目的でウイスキーが扱われることも多くなり、同業でも、その熱に温度差を感じることがあります。
そんなギャップを埋めるため、自社の哲学を乗せたプロダクトを開発したり、セミナーやテイスティング会でも発言はするように心がけているのですが、それがなかなか伝わらないジレンマもあります。
投機目的になりやすいプロダクトではありますよね。
海外ではNFTなども流行っていますし。
ウイスキーって時計や車と同じで、「顕示的商品」という側面がありますからね。
TwitterやInstagramといったSNSに、希少ウイスキーをアップロードするのも、少なからず顕示的な側面があるからなわけで。
嗜好品の中ではコレクション性も高いし、顕示欲を満たす商品になりやすいのかもしれませんね。
数も限られているプロダクトなので。
肉体的なつらさとかはありますか?
各国の蒸溜所に買い付けに行ったり、試飲したり、体力的にきつい部分も出てくるのかなと思います。
バイイングの時など、一つの商談先で多い時は50種類くらい飲みますね。
少なくても10種類くらいは試飲するので、それを一日3~4件周るとなると酒量は多くなります。
移動もかなり長いので、健康管理は常にしていますね。
ウイスキービジネスはひとつのプロダクトが日の目をみるまでにすごく時間がかかるので、ずっと続けるとなるとかなり体調面は気を付けないといけないですよね。
そうですね。
蒸溜所のスタッフも、今仕込んでいるものを飲めるかはわからないみたいなこともあるので。
そういう意味でも我慢強さが大切な仕事だと思っています。
樽やボトルの選定基準
ラダーって、ボトラーズとしては年間でどのくらいリリースしているんですか?
「年間何樽やる」みたいな明確な決め事はなく、コンセプトに合ったものがあったら買い付けるというスタンスでやっています。
ボトラーズビジネスとしてのカスク購入は、年間40樽前後でしょうか
オリジナル商品以外にもウイスキーバーのオーナーなどにも頼まれることがあるので、そのくらいは買い付けを行っています。
40樽もやってるんですか!!流石だなぁ。
北梶さんが樽やボトルを選ぶなかで、その基準や気を付けていることを教えていただけますか?
まず一人のウイスキー愛好家として、欲しいと思う味、買いたいと思う哲学が詰まった原酒を選ぶことを基準としています。
ただ、個人の趣味嗜好だけでは偏りが生じてしまうので、なるべく広いラインナップ(熟成年数や蒸溜所、樽や香味の種類)のリリースができるように心がけています。
普段からBARに行って、色々なタイプのウイスキーを飲むのもそのためです。原酒の持つポテンシャルや魅力を幅広く感じられるよう、テイスターとしてスキルアップも図っています。
昨今人気銘柄を飲んだりもしますし、実際に飲んで美味しかったものは選定の参考にするようにはしていますね。
自分の好きな樽だけ詰めればいいってわけじゃないですもんね。
でも愛好家はいわゆる「北梶フレーバー」を求めている人もいます。それはブランドの強さですよね。
逆に「こういうウイスキーは買わないよ」というのはありますか?
未熟なもの、蒸溜所の個性が発揮されていないもの、あとはピークを越えてしまって過熟なものは買わないようにしています。
購入したお客様の失望感に繋がるようなものは排除していっていますね。
そういう意味では中長期熟成が個性も熟成感もあって、選んでいて楽しいですね。
ふむふむ。ハウススタイルが消失してしまっていると、ストーリーも繋がりにくいし、プロモーションしにくいですもんね。
そうですね。
弊社の扱っているシリーズでも、以下のようにテーマ分けをしています。
- トリックスター:12年以下で若いけれど飲みごたえや見どころのあるもの。
- アートセッション:13年以上の中期熟成をメインに扱うスタンダードシリーズ。
- アブソリュートチョイス:カスクサンプルの時点で、値段聞く前に絶対買いたいと思った商品。長期熟成が多い。
各シリーズに年数で縛りを設けることで、個性を活かした商品を選ぶ基準になっているということですね。
わかりやすい。
あとは美味しい原酒だけれど相場を著しく超えてしまっているものはやらないです。
それから、汚染や事故的要素で原酒のもつポテンシャルが発揮されていない原酒、オールドボトルで言うと、時間の経過で状態が悪化し、香味が壊れてしまっている事が予測できるものは購入しないようにしています。
なるほど。
メジャー蒸溜所のものでスペックは十分でも、香味が壊れている可能性があるものはリスクありますよね。
ちなみに最近扱ったもので、興味深かった樽とか、これはないだろー、みたいな樽とかありましたか?
昔はあまり人気のなかったいわゆる”パフューミー”と言われる味のウイスキーあるじゃないですか。
最近ウイスキーを好きになった方って、まだあの味を知らない方も多いんです。
なので80年代の強烈なものでなく、ライトなパフューミーのものを探して提案したりはします。
色々なフレーバーのウイスキーを提案していきたいというのはあります。
おお~なるほど!
飲みなれてくるとゲテモノというか、いわゆる変わり種を飲んでみたくなるのがウイスキーラヴァーのサガ。
昨今本当にバラエティ豊かになってきましたよね。昆布カスクフィニッシュとか、タバスコバレルフィニッシュとか。
ウイスキーも多様性の時代ですなぁ。
「日本は買い負ける!?」最近の原酒買い付け事情
輸送コストが爆増
では、昨今の買い付けについて少しお話聞かせてください。
コロナウイルスの影響でメーカーや蒸溜所をはじめ大きな変化があったと思います。
コロナの影響は大きかったですね。
メーカーや蒸溜所、ボトリング工場も人員を削減しているところが多いです。
流通は不安定で平時と比べて、買い付けから商品到着するまでのリードタイムがかなり長くなっています。
それによって輸送コストもだいぶ上がりました。
続くロシアのウクライナ侵攻のダブルパンチで、船便はもとより、航空貨物の輸送コストも上がっています。ロシア上空を通れないので、航空貨物の輸送料金が数倍に跳ね上がっているんですよ。
4倍とか5倍とか聞きますもんね。
僕もマグメルの第三弾(BARRELのPB)やった時、めちゃめちゃ時間かかりましたもん。
これからPBとか出す人は(僕も含めて)、ほんと大変だよなぁ。
ちなみにこの輸送費、商品価格にも反映されちゃいますよね。
そうですね、これはどうしても仕方ない点ですね。
でも僕らより厳しいところもあります。
それはビールを輸入しているインポーターさん。
我々はメインで扱っている商材がウイスキーなので、賞味期限が切れるということはまずないのですが、ビールはそうはいきません。
船便で移動している間に賞味期限が切れてしまうというケースもあるようです。
船の上でダメになっちゃうってことか!
かといって航空便で飛ばすとなると、めちゃめちゃ高額になって、単価が合わないですしね。
「東京リバーサイド蒸溜所」などでは賞味期限切れのビールを蒸溜していたりしましたね。そういうのはエシカルで良い取り組みだと思います。
噂のエシカル・スピリッツ!
時流的にもエシカル消費はキーワードですよね。
今後ウイスキーにも重要なキーワードになってくるので、このお話はまた後日しましょう!
原酒の割り当てが少なくなってきた
この状況下で、直接海外へ出向いての買い付けが少なくなっていまして、スコットランドに近い欧州のバイヤーに、先に良質な原酒を抑えられてしまうケースも増えてきました。
また、近年は日本以外のアジア諸国の台頭が課題です。
向こうのウイスキーマーケットは活況ですからね。
中国、アジア諸国のウイスキー熱もすごいですよね。
むしろ日本のウイスキーブームはチャイナマネーの流入が起こしたとも言われてますからね。
僕がウイスキーのバイイングを初めてから15年くらいになるのですが、もともと日本はアジアの中でダントツのシングルモルト先進国だったんです
2000年までに流通していたシングルモルトの種類を見ると日本が圧倒的に多い。海外のウイスキー愛好家はその頃のオールドボトルに興味を持って日本に来日するケースもあります。
しかし最近、輸入量だけでいうと、台湾やシンガポールに追い抜かれてきています。。
やっぱり台湾やシンガポールにいい樽が回りやすいみたいなことってあるんですか?
中華圏などは新しいマーケットなので、日本よりも高値で樽を買う傾向があります。
有名どころだと、ディアジオの「カスク・オブ・ディスティンクション(COD)」などはそちらに周りやすいと思います。
日本はシングルモルト先進国ではあったのですが、それがゆえにウイスキーを知りすぎている。
日本人は「このスペックでこの価格は高すぎでしょ」という相場観を持ってしまっているので、ディアジオとしては売りにくいですよね。
糸目をつけずにバンバン買ってくれる中華圏のほうに回りやすくはなっていると思いますね。
マーケットが刻一刻と変化する中で、日本の飲み手の文化を守るべく活動していきたいと思っています。
買い付け時のビックリエピソード
北梶さんが買い付けをしている際に、びっくりするようなエピソードってありましたか?
シングルカスクのウイスキーを選んで詰める際に、カスクサンプルを飲んで選ぶのが当たり前だったのですが、最近はそれこそ中華系や他のアジア地域の方々が、ウイスキーを飲まずに樽をリストから選んで買うパターンが増えてきたんですよ。
これにはビックリですね。
これまで僕はスコットランドに行って、10樽~20樽くらいからひとつの樽を選んでいたので、考えられないですよ。
出たー。
その話結構聞きます。
資本力にものを言わせてる感じしますねぇ。
僕らのようにサンプリングしないので、彼らの原酒クオリティは玉石混合のようですが。
先もの買いでボーンと一気に買っちゃうので、良いものもあれば悪いものもあるといった具合のようです。
大陸の方々のノリってそういうところありますよね。
家電製造とかでも、日本人は100個作って1個しか不備がないくらい正確に作るけれど、向こうは1,000個作って100個不備が出る。
でも900個納品できるから結果生産力が高い。みたいな。
まさにそんな感じですね。
ウイスキー人気が出るのはいいことですが、これまで真剣に原酒をサンプリングをして、選抜してきたやり方が通用しないというか、それによって最近日本が買い負けているのは悲しいことですね。
真剣に選ぶのは時間が必要ですからね。
一本釣りか、投網戦法か、みたいな様相を呈してきていますね。
驚いたエピソードといえばもうひとつ。
バイイングをした初期の頃に、意外だなぁと思ったのは、スコッチウィスキー協会(Scotch Whisky Association、SWA)の中で、シングルカスクという定義が定められていないことですかね。
原酒、樽の経歴をしっかり管理している蒸溜所では、樽詰から払い出しまで1つの樽で熟成されたものをシングルカスクとして表記している例もあるのですが、それ以外の蒸溜所では、少なくなった原酒同士を合わせて樽を移し変える事もしばしばあって。
それがシングルカスクとして売られていると聞いて驚いたのを覚えていますね。
え、それは意外。
じゃあ僕が飲んだシングルカスクにも原酒掛け合わせのものがあったかもしれないのか、、、。
僕はおいしけりゃいい派ではあるのですが、この辺りの透明性ガイドラインは整備に時間がかかりそうですね。
まだまだ好況は続く?ウイスキーブームの実情
世界的ブームは続くか?
現在価格高騰が著しいウイスキーですが、今後のウイスキーシーンはどうなっていくと思いますか?
北梶さんが海外の蒸溜所、サプライヤー、インポーターを見てきた中で感じているイメージを教えてください。
日本に限らずスコットランドでも新しい蒸溜所が増え続けています。
日本は50箇所以上、スコットランドは恐らく150箇所以上ありますよね。
味わいも多様化しており、一人の愛好家として選択肢の幅が広がることは素晴らしい事だと感じています。
しかしボトラーズビジネスを展開している一人のウイスキーマンとしては、新興蒸溜所が今後どうなっていくのか、期待と同じくらい不安を感じているのが正直なところです。
メジャー蒸溜所の原酒も増産されていますし、いつまでも原酒不足ということはならないですよね。
これだけ蒸溜所がボコボコできると、別の問題も出てくる。
新規で設立したすべての蒸溜所のプロダクトが、”まんべんなく売れる”っていうことは考えにくいと思うんですよね。
ずっと人気で高単価を維持できるメジャー蒸溜所もあれば、ブーム時の価格高騰が落ち着いて、頭打ちになるマイナー蒸溜所もある。
「そこそこおいしい新興蒸溜所」はたくさん出てくるので、そもそも選んでもらえない可能性すらあります。
はい。
ご存じの通りウイスキーは好景気不景気を繰り返しやすい業界です。
蒸溜所がどんどん閉鎖していった1980年代のような時代が、いつきてもおかしくないような状態になってくると思います。
不景気の時にどのようにウイスキービジネスを続けていけるか、それがとても大事にキーワードになるでしょう。
ウイスキーってリリースするまでにどうしても時間がかかるし、需要と供給のバランスが崩れやすいプロダクトですよね。
不景気な時こそ、我々のようなボトラーズが蒸溜所から原酒を購入し続け、マーケットを支えていかねばと思いますね。
マーケットをより長く存続していくために、蒸溜所、ボトラーズ、輸入業者、酒販店、バーテンダー、愛好家、それぞれがそれぞれの立ち位置でベストを尽くし、ウイスキーをとりまく環境を守っていければと思っています。
最近、ボトラーズが蒸溜所を起ち上げたり、蒸溜所がボトラーズビジネスに取り組むパターンも増えてきました。
こうやって共存共栄していくのはとても良い動きに感じています。
なるほど。
ボトラーズであれば、マイナー蒸溜所の商品でもこんな面白い原酒もあるんだぞということをシングルカスクで見せていけますもんね。
それぞれの立ち位置を理解した上で、力を合わせていきたいですね。
高騰し続けるウイスキー、今後の価格はどうなる?
価格面はどうでしょうか?
これ以上高騰すると新規ファンの参入は難しくなってくると思っています。
一部の富裕層たちだけの飲み物になってしまうのでしょうか。
二極化はより大きくなると思います。
超高額なプレミアムウイスキーは投機的な意図も含め、売れ続けるのではないでしょうか。
スコッチをはじめジャパニーズやアイリッシュも爆発的に価格高騰していっていますね。
ボトラーズの商品でいえば、マイナー蒸溜所の銘柄も10年以下の熟成で1万円を超えてきていたりしますし、スタンダード品もどんどん値上がっています。どのあたりで価格が落ち着くのかは、BARRELの多くの読者が気になっていると思います。
そもそも原酒が足りた場合に価格が止まったり、下がってくることってあるんでしょうか?
一度市場に出たボトルの価格が下がるということはまずないと思います。
商品の動きが悪くなった場合に酒販店がキャンペーンなどを打つことはあると思いますが、希望小売価格を変えるようなことはないでしょう。
こういった各国のウイスキーが値上がっている背景には、蒸溜所が爆発的に増えていることも起因しています。
麦芽の需要が増えてしまい、原価が上昇しているのです。
原材料費の問題は深刻ですよね。
先日も知り合いの酒屋さんと話していて
「今販売されているボトルには、ロシアのウクライナ侵攻の原材料費乗ってないからな」って言ってましたもん。そりゃそうだよなぁって。
麦芽商社も取引実績のある蒸溜所を優先するので、新興蒸溜所は仕込みが止まる可能性も出てきますよね。
あとは空き樽の問題ですね。
樽もウッドショックの問題で確保が難しくなってきています。
なるほど、、、ウッドショックの影響は樽だって受けますよね。
考えてみればそりゃそうか。原材料が木だもんな。
建築用木材もめちゃ高くなって工務店も困り果てていると聞きます。
そうなんです。
スコッチやジャパニーズでよく使われるバーボン樽も、なかなか米国から出てこなくなっちゃてます。アメリカンウイスキーの製造で2回樽を使ったり、自国で回転させているので。
なので、こういった問題は新興蒸溜所を今後苦しめると思います。
麦芽は輸入品が断然安いので、これまで海外をメインに仕入れてきましたけど、これからはわかりませんよね。
日本の蒸溜所でも自社で麦を製造しているところがありますが、これは先を見据えた素晴らしい取り組みだと思っています。
海外ウイスキーラヴァーと日本のウイスキーラヴァーの共通点と異なる点
北梶さん結構色々な国に行かれていると思うのですが、海外ウイスキーラヴァ―と日本のウイスキーラヴァーの共通点や異なる点などを教えて欲しいです。
海外のイベントやマスタークラスに出展していて思う共通点は、おいしいものを飲んだ時のリアクションですかね。
やはりどこの国でもうまいものには納得するんだなぁと安心します。
一番の違いはなんといっても「酒量」ですね。
オランダ人とかやはり身体も大きいですし、圧倒的に飲みます。
日本およびアジアの方は、欧州ほどお酒を飲めない方が多いので、最近では小瓶で持ち帰る人も多いように思えます。
飲める量は確かにありそうですね。アジアの人ってそんなにお酒強くないですから。
味に対してはどうですか?海外のほうがシビアとかありますかね?
日本のウイスキー愛好家は、欧州また他のアジア諸国の愛好家より香味を繊細に拾えると思っています。
食文化の違いは大きいと思っていて、欧米人は普段からお肉を多く食べるので、サルファリーな香味を拾い難いという話を聞いたことがあります。
日本人は、日本食をはじめとした出汁文化や旨み成分に慣れているので、繊細な舌を持っているのではないでしょうか。
だからこそ、海外のセミナーなどで「ジャパニーズウイスキーの作り手や関係者はとても味に敏感で、レベルの高いマーケットである」とプレゼンしていますね。取引にも影響すると思っています。
ジャパニーズウイスキーの認知と未来
海外ではまだまだ知られていない新興蒸溜所
では続いて、我が国のウイスキーであるジャパニーズに関しての質問もしていこうかと思います。
たくさんのクラフトディスティラリーが生まれているジャパニーズウイスキーですが、海外の評価としてはどうなんでしょう?
色々なアワードを受賞したりしていますし、価値はどんどん上がっていっているように見えますが。
新蒸溜所のファーストリリスもどんどん出てきましたし、WWAなどのコンペティションでも世界的に高い評価を受けていますよね。
だから当然ヨーロッパのウイスキー愛好家なども知っているのかな?
と思いきや、意外と知られていないんですよ。
前回ドイツに行った時も、いわゆる2016年組(厚岸や安積など)のブランドは知っている人が少なく、やはりサントリーやニッカ、イチローズモルト、あと軽井沢とか、これまでのメジャーブランドしか知らない方が多い印象でした。少しギャップ感じましたね。
そういう意味では我々ボトラーズがそういった新興蒸溜所のウイスキーを海外で広げていけたらと思っていますね。
まだまだ届いてないんですね。
日本の活況と比較すると意外に感じます。
でもまぁ、相当なマニアでないとWWAでどのボトルが賞を獲得したのかなんてわからないからなぁ。
じゃあ向こうの人はそもそも日本のクラフトディスティラリーのウイスキーを飲んでいないって事ですかね?
そうですね。飲んでいないと思います。
まぁそもそも流通が多くないですしね。
我々は日本人だから買いやすいというのはあると思います。
あとはその、ホラ、隙間に生まれた免税店とかで扱っている、謎のジャパニーズウイスキーあるじゃないですか。
ああ 笑
ジャパニーズなデザインを施した謎バルクウイスキーですね。漢字二文字のやつとかカタコトの日本語みたいなやつ。
そうです、そうです。
あっちのほうが認知度が高かったりするので、ちょっと危機感を覚えますよね。
今はジャパニーズウイスキーの定義が決まったので、下手なことはできないと思いますけど。
アレ系って同じようにコンペティションでアワードも獲っちゃっていて、マーケティングはうまいなと思いますよね。
以前某謎ウイスキーを作っている国内の会社に電話したんですけど、日本語片言のスタッフが電話に出て、取材断られちゃったんですよね。
ほんと、ああいう商品作っている人に話聞いてみたいわ。
どんな気持ちで作っているのか?ラベルの漢字の意味わかってんのか?みたいなこと聞きたい。笑
国内新興蒸溜所の海外戦略について
今後、新興蒸溜所からリリースされるボトルを海外に販売し、外貨を獲得していくのは必須になってくると思います。
嘉之助蒸溜所とディアジオのパートナーシップにはじまり、飛騨高山蒸溜所(舩坂酒造)には海外輸出の専門アドバイザーがいたり、こういった販路がある企業とない企業では打ち手が変わってきますよね。
インポーターとして北梶さんも色々依頼を受けたりしますか?
そうですね。
時々蒸溜所の方からも、「ウイスキーを輸出したいので、その土地のディストリビューターや代理店をやってくれるような会社を知らないか?」みたいなことは聞かれますね。
日本のウイスキー蒸溜所も50か所超えてきていますからね。
海外に販路があるかないかは、生き残るためにも重要ですよね。
米国、アジア、欧州とウイスキーのマーケットも様々です。
ジャパニーズウイスキーはスコッチと似た製造の流れを汲んでいるので、サントリーやニッカ、イチローズモルトのように、本場スコットランドに挑戦したい(輸出したい)と思う新興蒸溜所も多いでしょう。
ただ、熟成年数3~5年のものを現在の価格帯で販売するのは難しいでしょう。
割安なスコッチとどう戦うかは各メーカー思案のしどころだと思います。
月光川蒸留所を建てることを発表した楯の川酒造も、2008年頃から日本酒を海外輸出して好評を博していますね。
海外販路がないところがそのままウイスキーだけを持っていって、味と価格だけで勝負するのは厳しいと思います。
ハイボールもそうですけど、日本文化に乗せて、海外に紹介していくのも面白いかなと思います。
「水割り」とかいいんじゃないかなぁ?
茶室みたいな三畳くらいのスペースで、茶道のように水割りをたてるみたいな。まぁウイスキーカクテルでもいいですけど。
そういうエンタメ要素を含めて演出するのは客受けもよさそうだし、単価も上げやすい、チップ文化がある国では浸透しそうな気がします。
ウイスキーってカクテルと違ってSNS向けじゃないし、エンターテインメント性に欠ける飲み物ですよね。
ウイスキーのエレガントさを殺さない程度に、文化に根差したプロモーションを行っていくのはいい打ち手なんじゃないかなぁ。
あーそれは面白いかもしれませんね。
水割りとかハイボールとかはまだ海外では浸透していないんで、そこの演出に凝るのはいいアイデアかもしれません。
今後、海外マーケット見据えてどう広報戦略を練るか、みたいな会議も各所で行われてくると思います。
その際は北梶さんも頼りにされそうですね。
僕も、何か企画やハックを考えて有識者会議に呼ばれるよう頑張ろう。
国内新興蒸溜所の課題とその解決策
海外戦略への課題についてはお聞きしましたが、他に国内蒸溜所を巡っている中で、北梶さんが気づいた点とかありますか?
人材とか、技術面とか。
蒸溜所は増えていますが、ウイスキーを製造したことのある経験者は限られているので、技術者は不足している印象はあります。
クラフトディスティラリーのみなさんも、ご自分で勉強なされてますが、やはり立ち上げの際に経験者がいるといないのでは大きく違うと思います。
今はブームなんで採用コストはあまりかからなそうだけど、経験者となると相当難しいですね。
OBをアドバイザーに据えたり、教育プログラムを用意したり、あとは勉強会や研究会を組織するとかか。
先ほどの広報同様、ここは今後解決していく必要がありますね。
あとは先ほど触れた、麦芽や空き樽が不足しているので、原材料や資材の供給が不安定であるということは心配ですね。
これが続くと未来のジャパニーズウイスキーの価格は必然的に上がってしまう訳で。。。
3~5年物でもかなり高価格で、これ以上高騰するってことですもんね。
いやー、マジでどうなっちゃうんだろう。
麦芽や空き樽がなければ、そもそも製造をストップするしかないという蒸溜所も出てきてしまいますからね。
そうなるとやはり自社で国産の麦を使って精麦してる蒸溜所は勝ち残るかもしれないですよね。
いや、ホントそうですね。
これ以上国内新興蒸溜所のボトルの値段が上がると、スコッチとの値段の開きはやばいことになっちゃいますもんね。
グレンフィディック安くて優秀だもん。
いくら美味しくても、スコッチの価格帯と比べてあまりに割高となると、ジャパニーズウイスキーを選択する愛好家は減ってしまうかもしれません。フィディック普通にうまいですからね。笑
北梶さんって新興蒸溜所の値付けの内訳とかってわかっていたりするのでしょうか?
たとえば新しい4年もののジャパニーズウイスキーが3万円で発売されたとして、原材料費がこれぐらいで、保管料がこれぐらいで、人件費がこれくらいかかってみたいな。
僕は蒸溜所側の人間ではないので、そこまではちょっと分かりかねますね。
個人的にはこういったコスト面も先に開示したところが、頭一つ抜けるというか、今風な戦い方なのかもなって思っているんですよね。
愛好家は「何にどのくらいかかってこの金額なのよ」っていうのはとても気になっていると思うので、それを正直に伝えるというか、商品プレゼンに混ぜてしまったほうがいいと思っています。
資材がこれだけかかっているとか、技術者の教育費にこのくらいかかるんだとか、その割合を正直に明示して、ユーザーの納得感を得ることで、ファンも増えるのかなと思っています。
ただこれ後出しにすると言い訳みたくなって顰蹙を買うので、プレゼンテーションに織り込むのが良いマーケティングかな。と。
確かに、正直に開示することで、応援したくなるっていうのはあるかもしれませんね。
コスト面を正直にぶっちゃけている蒸溜所ってまだ少ないなぁと感じています。
高級料理店とかだとコストを露わにしているところもありますね。
ネットで調べれば、食材の値段や加工の手間もどのくらいか相場が見えちゃうので、逆に手の内を明かして、「高くなる理由」をプレゼンするのが大事な気がしています。
お客様に真摯な態度で接するというのはどの業界でも大切ですよね。
価格帯でいえば、クラフトジンの「季の美」はスタンダードを作りましたよね。その価格帯に他のジャパニーズジンが合わせていくような流れになったこともありました。
確かに、ジャパニーズのジンはあれで価格帯が一気に上昇したみたいなところありますよね。
しかし価格だけ見るとスタンダード品の偉大さというのは改めて感じますねぇ。
ボンベイもうまいしな。
バイヤー、ボトラーズの将来性
最後にラダーが考えるバイヤーやボトラーズの将来性。
そして、これからこの職業を目指す人へのアドバイスなどがあったらお聞きしたいです。
そうですね。
困難は確実にくるでしょうけど、ボトラーズの未来は明るいと思っています。
最古のインディペンデントボトラーと言われるケイデンヘッドが操業して今年でちょうど180年。
さらにシングルモルトの消費がほとんどなかった時代から、蒸溜所より先にシングルモルトをリリースし続けているゴードン&マクファイル。
こう見ると、ボトラーズブランドの歴史や文化ってとても長く続いているんです。
今でこそ世界的なプームもあり、蒸溜所が強いタイミングではあるのですが、インディペンデントボトラーズの文化はこれからも続いていくと信じています。
蒸溜所よりひとつ下流で、お客様と近い立ち位置で、蒸溜所の良さを伝えていきたいと思っています。
ボトラーズやインポーターになるには?
北梶さんのようなボトラーズビジネス、インポータービジネスを手掛けるのに近道とかってあるんですか?
僕は小売りの酒屋から始めましたが、流通の流れが見れたのはプラスでしたね。
どういうシステムで値段が決まっていくのか学べました。バーや愛好家の方の顔も見えましたし。
いきなり蒸溜所で働くというのは、専門的な知識が必要だし、ハードルが高いと思うので、酒屋さんやウイスキーショップで働いてみるのはおすすめです。
いきなりインポーターにはなれないですからね。
そうですね、販売の免許とかも種類があったりするので、まず酒屋さんとかで幅広く学ぶのはいいかなと思いますよ。
蒸溜所から特別な樽を譲ってもらうってとても難しいことだと思うのですが、蒸溜所や信頼を得ていくコツみたいなものってありますか?
そのウイスキーをどういう人に、どうやって届けるのか、しっかり説明することですかね。
そしてボトリングして販売した後も、バーなどで評判を聞き、蒸溜所側にフィードバックする。
生産者さんに末端のお客さんの声を届けるのはすごく喜ばれます。
今後のニーズの把握にもなるようですし、参考にしていただいています。
そういう積み重ねがコツといえばコツでしょうか。
ボトルの反響を伝えるのは、その後のウイスキーの味や蒸溜所の方向性を決める重要な要素ですもんね。
この業界を目指す人へのメッセージ
最後に、次の世代に向けて何か伝えられることがあれば聞かせてください。
まず「ウイスキーを目いっぱい楽しんでください!」と言いたいです。
好きな事を仕事にしてしまったが故にウイスキーを嫌いになってしまったら、それほど残念な事はないので。
ウイスキーは「時間を飲む」と表現されるほど、仕上がりまでに長い時間を要します。
商品を扱う上で、いちバイヤー、いちウイスキーマンとしては長くビジネスを続けていく我慢強さが必要になります。
すぐに結果に結びつく取り組みやビジネスというのは逆を返せば長く続かない可能性が高いもの。
人間関係も含めて、自分自身に素直に、嘘をつかず、我慢強く仕事取り組んでいって欲しいと思います。
様々な課題はありますが、ウイスキーが熟成されるかのように、慌てずじっくり向き合っていきたいですね。
今回はインタビューにご協力いただき、ありがとうございました。
今回は文字でしたが、次回は動画で撮りましょう!
北梶さんの会社「RUDDER LTD. 」はこちらからチェックしてみてください。
こんにちは、北梶さん。
先日は弊社のブランド「KYKEY」の新商品にコメントありがとうございました。
今日は色々とお話しできればと思います。
よろしくお願いします。
まず、現在のお仕事について簡単にお聞かせください。