ウイスキーで小説を抓む。

古本

物語としての『ウイスキー』

「このウイスキーは古本屋の香りがする」

ウイスキーを飲んでいた時、ふと私の友人が漏らした言葉です。

この言葉はあながち間違いではありません。

古本屋の香りとは、年月を重ねた数多くの『古本』による古い紙の匂い。つまり年月を置いた木の香りです。

かたやウイスキーは、蒸留酒を樽で熟成させたお酒です。木の樽に入れて熟成させることで樽の香り、つまり木の香りを付けるのです。

年月を経た古本の香りと、樽の中で熟成されたウイスキーの香り

この香りの意外な共通点には、しかし不思議と納得してしまうところがありました。

おそらく、それは古本とウイスキーそれぞれが持つ、物語を感じてしまうからなのでしょう。古本には、例えばそれが小説であれば、今より昔、その小説が書かれた時代に生まれた古い物語が。そしてウイスキーには、造られた土地、時代から、時間をかけて熟成され完成した味と香りが織りなす物語が。

その物語、実は同時に楽しむことができるのです。

「贅沢な」と言われる方がいるかもしれません。しかし、そうです、そうなのです。それは最上の贅沢なのです。

ウイスキーを飲みながら小説を読む。そんな贅沢をしてみませんか。

 

「ゆっくり」飲み、「ゆっくり」読むということ。

雰囲気

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ウイスキーはゆっくり飲むモノです。時間をかけて楽しむ娯楽。目で楽しみ、鼻で楽しみ、舌で楽しむ。そのためにはどうしても時間が必要なのです。

その「ゆっくり」に合わせて小説を抓(つま)む。

小説もまたゆっくり楽しむものです。言葉を読み、考え、知る。忙しい中で読む小説も悪くはありませんが、たまにはゆっくり小説の読むことで「落ち着く」という行為を思い出せます。

ただただ小説を読むのは寂しい。

一人ウイスキーを傾けるのに何かが足りない。

そう感じたのなら、『小説とウイスキー』。思い出してみて下さい。

 

しかし僕らはお酒に弱く、楽しむことができないかもしれない。

小説のお供にウイスキー、またはウイスキーの肴に小説を楽しむ際、気を付けていただかなければならないことがあります。

それは、重ね重ね言うことになりますが、ゆっくり時間をかけるということです。

ウイスキーは度数の高いお酒です。度数が低いものでも40度、高いものだと60度を超えることがあります。そんな強いお酒を短時間で飲むとなると、どうしても酔ってしまいます。

酔ってしまえば、小説など読めたものではありません。文字は踊り、物語の筋は途切れ途切れ、登場人物やタイトルさえ分からなくなってしまいます。少なくとも私はそうなります。

ですから、小説とウイスキーを楽しむ時はゆっくり時間をかけて欲しいのです。

 

小説好きはウイスキーを楽しむ術を知っている。

時間をとって小説を読む方は、ウイスキーを楽しむための術を自ずから知っているといっても過言ではありません。その逆もまた然りです。

じっくりと小説を読む時、そこには物語やキャラクター性だけではなく、思わずのめりこんでしまう雰囲気があります。雰囲気は、世界観だったり、トリックやギミック、舞台装置、登場人物同士の性格、関係性であったりと、様々な要素から生み出されます。

夜

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小説をじっくり読みたいという方は小説の持つ雰囲気を楽しむことができているのでしょう。

ウイスキーにもこのことは当て嵌まり、色や香り、味はもちろん、飲み方や蒸留所の歴史に至るまで様々な要素を持ち合わしています。
これを時間をかけて楽しめる方は、小説の雰囲気を楽しめる素養があるのではと思います。

 

小説を読ませるウイスキー、ウイスキーを飲ませる小説

では、どんな小説がウイスキーに、どんなウイスキーが小説に合うのでしょうか。

小説は、紀元前から現代に至るまでそれこそ無限ともいえる数が存在し、ウイスキーも様々な種類、蒸留所、銘柄、年代と膨大な数があります。また、当然個人の好みもあることから断言するのは難しいことでしょう。

しかし、物語を繋げることは可能です。

小説にはジャンルが存在し、その舞台においての土地柄時代といった背景があります。ウイスキーにもあります。ご存知のようにウイスキーは土地柄と時代背景に彩られ、小説のジャンルに対しては、スコッチやバーボンといったウイスキーをかたどる歴史の総称で対応するのです。

ごちゃごちゃと言葉を重ねて説明してもわかりにくいことでしょう。
なので、実際に小説とウイスキーを知っていただいて、物語の繋がりを感じてみて下さい。

 

ウイスキーとミステリー小説

ミステリー小説といえば、外せないのが英国です。

英国ミステリーにはしばしばウイスキーが登場します。それもそのはず、英国のある大ブリテン島には、ウイスキーの代名詞ともいえるスコッチウイスキー発祥の地、スコットランドがあるのです。

そして、数ある英国ミステリーの中でウイスキーと一緒にオススメするのが、アガサ・クリスティ名探偵ポアロシリーズです。

ポワロ

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ポアロ』の世界には、時代の流れが存在します。第一次大戦後の英国。自動車が走り、近代化が進んでいく。しかし完全には時代の転換は果たされず、貴族社会や旧体制が残る中、一方では民主化やそれを象徴する米国の進出が垣間見える。

ポアロ』はその舞台において紳士を自称する探偵です。彼が登場する場面はどれも華々しく、その時代の英国を味あわせてくれる雰囲気がそこかしこに散りばめられています。

 

『ポアロ』を読むのであれば、ウイスキーはスコッチウイスキー。そして華やかさが感じられるものが良いでしょう。

『ダルモア 12年』は気品のある、華やかなウイスキーです。重厚な香りはミステリーと絡み合い、程よい緊迫感を演出してくれます。オリエント急行の殺人葬儀を終えてなど読み応えのある作品と一緒にどうぞ。

ボウモア12年

ウイスキーとハードボイルド小説

ハードボイルド小説とは、いわばマッチョな小説です。現代ではだいぶ下火になってしまいましたが、第一次大戦後の禁酒法時代の米国で流行し、その後の二次大戦後に日本にも渡り隆盛を極めました。

ジャンルとしてはミステリーと被るのですが、ハードボイルド(堅ゆで卵の意)という強靭で折れることのない生き様の人物が登場する、独特な雰囲気の小説は多ジャンルとは一線を画すものです。

 

さて、このハードボイルド小説からウイスキーと併せてオススメしたいのが、レイモンド・チャンドラーの描くフィリップ・マーロウシリーズです。

シリーズ中でも、長いお別れは名作として愛され続け、近年にも日本でテレビドラマ化されました。主人公の探偵『フィリップ・マーロウ』は、タフでクール、独特なセリフをその魅力として、小説の主軸を担っています。

 

合わせるウイスキーはバーボンです。アメリカンウイスキーであるバーボンは、ハードボイルド小説の本懐であるマッシブさを余すところなく感じさせてくれます。

『ウィレット』は重厚さと純粋さを併せ持つ正にハードボイルドなバーボンです。口当たりはガツンときますが、その後に感じられる澄んだ味わいは、研ぎ澄まされたバーボンの神髄です。『長いお別れ』の感傷的な雰囲気が良くマッチする一本です。

ウィレット

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ウイスキーと村上春樹

 

最近では『騎士団長殺し』を発表して、再度スポット浴びた村上春樹ですが、前述の『長いお別れ』の翻訳本『ロング・グッドバイ』も書いています。

また、ウイスキー好きとしてもその名を馳せていて、著書には『もし僕らのことばがウイスキーであったなら』という作品もあります。

もし僕

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村上春樹の著作で私がオススメしたいのは、世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドです。

この作品はタイトルにも入っている通り、多分にハードボイルド要素が組み込まれています。そして作中の一節。

「あらゆる酒の中ではウイスキーのオン・ザ・ロックが視覚的にいちばん美しい」

この言葉こそ、私がウイスキーを飲み始めるきっかけでした。この短い文は、簡潔にウイスキーの良さを教えてくれたのです。

 

その『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』と一緒に飲んでもらいたいのが、ボウモアです。

ボウモアブラックロック

ボウモア ブラックロック』は『ボウモア』の中でもシェリー樽が強く香ります。この『ブラックロック』をオススメする理由に色の濃さがあります。『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』は退廃的な世界観が強く、ダークな一面の強い作品になっています。『ブラックロック』はその作品のカラーと合っていて、雰囲気を重ねやすいウイスキーです。味も潮の味やシェリー香ブドウのような酸味と深みが感じられ、作品の奥深さと共に深みにハマります。

 

ウイスキーで抓む小説

小説を読む時間というのは、なかなかとるのが難しいものです。
情報過多な時代がさらにその機会を奪っていることもその要因です。
読みたい小説があっても、その時読むことができなければその小説に対する熱は段々薄らいでいってしまうでしょう。

だから私は、ウイスキーと一緒に楽しんでいただくことを提案したいのです。

ウイスキーと一緒ならば、小説のためだけに時間を取るという目的から、楽しい時間を過ごすという目的を見出せるはずです。

ウイスキーと一緒であるからこそ小説を読み、小説を読もうとするからこそウイスキーを用意する。小説とウイスキーを味わうことのできる落ち着いた優雅な時間

たまにはそんな時間を過ごしてみるのもいいものですよ。

ABOUTこの記事をかいた人

陣内

北海道生まれのフリーライター。 ウイスキーと小説のマリアージュをどうしても流行らせたいと思っているアラサー。最近バーボンの奥深さに気付き、バーボン党に。 お酒はいろいろ嗜むが、結局ウイスキーに戻ってしまう様子。強くはないんでインスタントに酔っぱらえるのは利点。誰か私にお酒をください。