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ベンリアックの概要
ベンリアックはスコットランドのスペイサイド地方で造られているシングルモルトウイスキーです。
創業は1898年。
120年以上の歴史を持つ老舗の蒸溜所ですが、長い間ブレンデッド用に原酒を提供しており、シングルモルトをリリースしたのは創業から1世紀近く後の1994年。
ノンピートの大麦麦芽とピートを使用したヘビーピート大麦麦芽の2つのタイプのシングルモルトウイスキーを製造するユニークな蒸溜所でもあります。
ノンピート、ヘビーピートの割合はおよそ半々。
また熟成樽もシェリー、ラム、マルサラ、赤ワインなど30種類以上を使用することからチャレンジ精神旺盛な蒸溜所としても知られています。
ブレンデッドウィスキーはクィーン・アン、サムシング・スペシャルなどに原種を提供しています。
ベンリアックの発祥と製造場所の紹介

ベンリアック蒸溜所はエルギンの中心街から南へ約5km下ったところにあるスペイサイド老舗の蒸溜所「ロングモーン」に隣接するように建てられています。
ベンリアックはの「ベン」はゲール語で【山】。
「リアック」は不明な点が多いのですが一説には【灰色かがった】【傷のある】という意味だといいます。
見たところ近くに山はないのですが、蒸溜所近辺にはブラック・ヒル(黒い丘)と呼ばれる丘があったり、ブラウン・ミュアー(茶色の荒地)と呼ばれる湿地帯があることから、蒸溜所を取り巻く地形や色彩を意識し、「リアック」というネーミングなのかなと思われます。
蒸溜所建屋は数々のウイスキー蒸溜所建設を手がけた伝説的建築家であるチャールズ・クリー・ドイグ氏。

ドイグ氏はパゴダ屋根(正式名称:ドイグベンチレータ)を発明し、1890年代以降のスコッチ繁栄期に大きく貢献しました。
彼の建築はグレンバーギ蒸溜所からはじまり、その後、ダルユーイン、グレンファークラス、ダルウィニー、バルブレア、ノッカンドウ、アバフェルディ、プルトニー、ハイランドパーク、北アイルランドのブッシュミルズ、ダフタウン、タリスカー、グレンキンチー、スペイバーン、ベンローマック、アベラワーなどを設計します。
農場、ホテル (クレイゲラキホテル)、学校、ビール醸造所、鉄道、港湾、教会、病院も設計しており、建築以外にも粉塵爆発を防ぐ麦芽粉砕機や蒸溜廃液の処理法の特許取得などエンジニアの側面も併せ持っています。
まさに天才ですね。
ベンリアックの歴史

ベンリアック蒸溜所は 1898年、ジョン・ダフ社によって建てられました。
しかしスコッチ業界全体の不況のあおり(主にブレンド業者パティソンズ社が倒産したことによる)を受けて、創業からわずか1年で製造停止。
異例のスピードで停止です。
閉鎖中はお隣にあるロングモーン蒸溜所の為のモルティングのみを行います。
ベンリアックはここからなんと半世紀以上も閉鎖しっぱなしでした。
ようやく1960年代に入りグレンリベット社が買収。本格的に稼働を再開したのは1965年になってからでした。
1972年からはピーテッドモルトの生産を開始。
1978年にグレンリベット社の買収に伴いシーグラム社(現ペルノ・リカール)傘下に入ります。
1994年に初のシングルモルトをリリースしますが、1998年には伝統的なフロアモルティングを停止します。
2003年、バーン・スチュワート・ディスティラーズのディレクター、ビリー・ウォーカーと南アフリカのイントラ・トレーディング社が蒸溜所を買収し、蒸留を再開。
翌年にはベンリアック・ディスティラリー・カンパニーが設立されます。ここで始めて独立系の蒸留所として営業を再開します。
ここからはベンリアックは攻勢に転じます。
2008年にグレンドロナック蒸溜所を、2013年にグレングラッサ蒸溜所を次々と買収。
ベンリアック社はこの短期間で3つの蒸溜所を所有することになったのです。
- ベンリアック
- グレンドロナック
- グレングラッサ
この3つの蒸溜所はベンリアックファミリーとも呼ばれています。
ちなみにファミリー3兄弟の中ではベンリアックが一番若い蒸溜所となります。
同年(2008 年)にはフロアモルティングを再開。現在は年2回、フロアモルティングが行われています。

2016年にはブラウン・フォーマン社により買収され、以後同社の傘下として営業を続けています。
日本での販売は 2018年6月からアサヒビールが扱うようになり、ベンリアック10年、ベンリアック キュオリアシタス10年が新たにラインナップに加わりました。
ベンリアックの製法(作り方)
精麦から自社で行なっており、ノンピート、ピーテッド、2種類の麦芽を扱っています。
ピーテッド麦芽のフェノール値は55ppmとかなり高く、ヘビーピートの部類に属するといえるでしょう。
発酵槽はオレゴンパイン製を基本とし、ポットスチルは背の高い玉ねぎ型のストレートヘッドタイプを設置。
ベンリアックでは1970年代から1980年代にかけて拡張工事が行われ、1985年に2基だったスチルが4基(初溜×2基、再溜×2基)に増設されました。
仕込みに使われる水はミルビュイズという泉の湧水が使われます。
ベンリアックで特徴的なのは、麦芽を発芽させる伝統的な製法、フロアモルティングをおこなっていること。
もちろん全量でありませんが一部の大麦麦芽がフロアモルティングによって賄われています。
フロアモルティングの場合、一度に行う麦芽量は10トンで、ほとんどピートを焚かずに発芽させます。
現在のアルコール生産能力は年間約300万リットル。スペイサイドでは規模の大きな部類の蒸溜所といえるでしょう。
熟成にはバーボン樽が7割、シェリー樽が2割、その他、ラム、マルサラ、赤ワインなど30種類以上の多様な樽が使われています。
ブラウン・フォーマン社のブランドアンバサダーを務めるクレイグ・ジョンストン氏はベンリアックの複雑なフレーバーをもっとも豊かに表現できる樽はアメリカンオークであると考えており、良質なバーボン樽を使うことにこだわっています。
2016年に親会社が米国のブラウン・フォーマン社に変わったことで、高品質な樽の仕入れルートも確保も確保できたようです(主にジャックダニエルやウッドフォードリザーブに供給した樽を使っているようです)。
また2017年3月からはグレンモーレンジィやボウモアのマスターブレンダーを経験した、レイチェル・バリー氏がベンリアックのマスターブレンダーに就任されました。
バリー氏は他にもオーヘントッシャン、グレンギリー、ラフロイグ、アードモアなどウイスキー造りを経験しています。
女性ならではの繊細な感性が今後のベンリアックにどう反映されるか…今後が楽しみですね!
ベンリアックのラインナップ
ベンリアック10年
こちらはベンリアックのフラッグシップとなるボトルです。
バーボン樽原酒とシェリー樽原酒に加え、アメリカンオークやフレンチオークの新樽原酒もヴァッティングして複雑な風味を作り上げています。
香りはゆるくオークのアロマ、ベイクドオレンジ、シナモン。
口当たりはなめらかで、ジューシーさがありうっすらと南国フルーツを感じさせます。そしてバタークッキーの香ばしく優しい風味。
シナモンをたっぷりかけたカスタードクリーム入りのアップルパイ。
余韻も長く、デザートモルトにも向いています。
ベンリアックといえばこのなめらかな口当たりと、オレンジや南国感のあるフレーバーというイメージですね。
ベンリアック12年 シェリーウッド
オロロソ樽、ペドロヒメネス樽でフィニッシュした原酒をヴァッティングして造られたシェリー派モルトファンにはたまらないボトル。
シェリー樽由来の濃厚な甘みとスパイシーさに、ベンリアックの特徴である爽やかなフルーティさが共存する見事なバランスです。
残念ながら2017年に生産中止で終売となりました。(2018年末に復活!現在はシェリー樽フィニッシュのバーボン樽原酒も混ぜているとか)
香りはチェリー、オレンジの皮、ダージリンティ―、かすかにシナモン。
味わいはブラックベリー、枝付きレーズンのタンニン、カカオの強いチョコレート。続いてウエハース、麦芽クッキーのような香ばしさが広がり、後半は僅かなスモークがアクセントとなり飲み飽きません。
ベンリアック キュオリアシタス10年
自家製麦したヘビーピートモルトを使用したインパクトのあるパワフルな印象のボトルです。
マスターブレンダーのレイチェル・バリー氏が最初に着手したボトルでもあります。
ピートのレベルは55ppmですがアイラモルト特有の海藻やヨードの癖は感じられません。また違った印象のスモーキーフレーバーを味わえます。
ブラインドで飲むとアイラモルトと間違える方もいるかと思いますが、バーボン樽で熟成したベンリアックにはキャッチ―な甘みがあるため、スモーク香と拮抗した絶妙なバランスを表現できます。
コストパフォーマンスも良く、3,000円程度でアイラに負けない本物のピーテッドモルトを味わえます。
おすすめです!
ベンリアック 20年
ファーストフィルのバーボン樽をメインに長期熟成した贅沢な1本。
ピーティータイプの原酒を少量入れることで、より複雑な味わいになっています。
これよこれ、これがベンリアックよ!と言いたくなるボトルです。
2005年のIWSCでゴールドメダルを受賞した世界が認める上質なボトルです。
香りはバニラ、はちみつ、シナモンスパイス、りんご。糖度の高いミカン。
クリーミーな口当たりで、黄桃、トロピカルフルーツの甘みの後に焼いたナッツ、カスタードクリーム、カラメル。
爽やかなフルーツを感じさせる余韻の中からジワリと出てくるピートのバランスが絶妙。
まだ旧ボトルが売っていると思います。良くできたボトルで一飲の価値があります。
ベンリアック ハート・オブ・スペイサイド
こちらは8年から12年の熟成のモルト原酒を使用したベンリアックで最も若いラインナップです。
熟成に使用しているのは辛口のオロロソと極甘口のペドロヒメネス樽。
フルーティかつフレッシュ、スペイサイドらしさを存分に楽しめるボトルです。
リンゴや洋ナシなどのフレッシュフルーツとヘザーハニーが混ざり合った爽やかかつ奥深い香り。
味わいもフレッシュフルーツの甘み、ハチミツ、甘栗、ジンジャースパイス。
余韻もしっかり長く、ベンリアックの繊細さ、上品さが良く現れたボトル。
インターナショナルワイン&スピリッツコンペティション2006年のIWSCにて銀メダルを獲得した「ハート・オブ・スペイサイド」の名に恥じない素晴らしきボトルです。
ベンリアック バーニーモス
ベンリアックで仕上げたフェノール値50ppmのヘビーピート麦芽を使用したボトル。
「バーニーモス」の名前は蒸溜所近くのピート湿原に由来します。
海藻やヨードを感じさせるアイラモルトとは異なる、クリアでエレガントなスモーキーさを味わえます。
またフルーツやバニラの甘みも織り混ざり、スペイサイドモルトならではの部分も共存した、複雑な味わいのボトルです。
〜ウッドフィニッシュシリーズ〜
ウイスキー業界で30年の経験を持ち、有機化学者でもあるベンリアックの元マスターブレンダー、ビリー・ウォーカー氏が「樽」にこだわったシリーズ。
バーボンバレルで熟成した後に別の樽に移し替えて追加熟成し、香りと味に奥行きと複雑さをプラスしたシリーズです。
ベンリアック 15年 マディラカスク
マディラとは、ポルトガルのマディラ島でつくられる酒精強化ワインのこと。
マディラカスクはバーボン樽で熟成した原酒をマディラ樽で追加熟成して仕上げたボトルです。
バニラやスイートポテト、カステラの甘み、バタースコッチやナッツの香ばしさも感じられます。
ベンリアック 15年 ペドロヒメネスシェリー
シェリー酒最大の産地、ヘレス・デ・ラ・フロンテラにあるボデガでつくられたペドロヒメネスシェリーに使われた樽で後熟したボトル。
蜂蜜のフレーバー、甘口のペドロヒメネスシェリー由来のレーズンやラズベリーなどの黒く赤いフルーツ、チョコレートの甘み。
ボディは厚く、加水するとフルーティさが花開き、どんな飲み方でも楽しめます。
余韻も深く、後半にアンズのような甘酸っぱさが楽しめます。
ベンリアック 15年 ダークラムカスク
ジャマイカ産ダークラムに使われた樽で追加熟成したボトル。
香りはラム由来のトフィーの甘みとシナモン、ペッパーのスパイス。
味わいはアプリコット、シナモンから後半は葡萄へと変化します。
シナモン・アップルパイのようなデザートモルト。
ベンリアック 15年 トゥニーポートカスク
こちらは長期熟成のポルトガルの酒精強化ワイン「トゥニーポート」が使われた樽で追加熟成したボトル。
クレーム・ブリュレのようなコクのある甘み、シナモンのスパイシーさとナッツの香ばしさ。
バタースコッチの芳醇な風味とピーチキャンディのフルーツ感。
いくつもの風味の層が波のように押し寄せる1本です。
ベンリアックのおすすめの飲み方

「シェリー樽のスコッチ」と言えばやはりマッカランやグレンファークラス、次いでグレンドロナック、アベラワーなどの名が挙がるのですが、ベンリアック12年シェリーウッドも知る人ぞ知るウマくて安いシェリー樽ウイスキーとして愛好家に人気でした。
2017年にメーカー生産終了になっていたのですが、2018年末から生産を再開しました。
はちみつとオレンジ、そしてやや焦げた砂糖を感じさせるアロマ。
シェリーというよりもカカオ感の強い味わいで非常にウッディ。ジンジャービスケットのような風味もあります。
現行12年はミディアムボディでカカオチョコレートっぽい味わいが強いので、ストレートでゆっくり飲むのが良いと思います。
旧ラベルと飲み比べてみても面白いと思うので、機会があったらやってみてください。
ラフロイグなどのスモーキーなウイスキーがお好きな方は、ピーテッドモルトを使ったキュオリアシタスもぜひ飲んでみてください。
こちらはソーダで割って飲むのもおすすめです。クリアな印象のスモーキーハイボールが楽しめます。
なお、ベンリアックは1968年、1975年、1976年などがビッグヴィンテージ(当たり年)といわれており、信濃屋のリリースした1976は瞬く間に愛好家の中で人気となったシンデレラウイスキーとしても有名です。
瑞々しい洋ナシや黄桃、パイナップルなどキャッチ―で多彩なトロピカルフレーバーが印象的で、雑味の無いやわらかい口当たりと柑橘の爽やかな余韻を感じさせます。
ベンリアックは包容力のある酒質といいますか、樽の良いところをバランスよくまとめあげる原酒の力を持っていると思います。
現在はブラウン・フォーマン社が保有している数々の樽で挑戦的なカスクマネジメントを行っていると思うのでこの経験はこの先生きてくると思います。
近年では元グレンモーレンジィのレイチェル・バリー氏がマスターブレンダーに就任されたことも大きく、ベンリアックのなめらかな桃っぽさが、より女性らしく上品に磨き上げられることに期待したいです!