鹿児島県さつま町で1909年(明治42年)から続く老舗焼酎蔵、小牧醸造株式会社が、世界初となる屋久杉樽を使用したウイスキーブランド『Komaki Whisky』を2026年冬に正式ローンチします。
長年にわたり薩摩焼酎の技術と哲学を磨いてきた蔵が、ウイスキーという世界共通のフォーマットで日本の蒸留文化を発信する試みです。
3度の壊滅と、その都度の再建

小牧蒸溜所の歴史は、災害との闘いの記録でもあります。
1917年の川原大火で蔵を焼失し、現在のさつま町時吉に移転。1972年には大雨とダム放流による水害で7年間の操業停止。
そして2006年7月の鹿児島県北部豪雨では、川内川の氾濫により蔵が床上4メートルまで浸水し、製造機器・貯蔵中の焼酎・発酵中の醪・過去の醸造記録まですべてが失われました。
それでも、全国から駆けつけたボランティアや取引先の支援を得て、わずか2ヶ月後には製造を再開しています。この2006年の再建は同社にとって「第二の創業」と位置づけられており、「焼酎でみんなを笑顔にする」というコーポレートミッションと、フラッグシップ銘柄「一尚(いっしょう)」はここから生まれました。
世界初「屋久杉樽」と、百年の発酵技術
小牧蒸溜所がウイスキー造りを開始したのは2023年のことです。
最大の特徴が、ウイスキー業界では世界初となる屋久杉樽による熟成です。世界のウイスキー産業では、熟成にオーク材(広葉樹)を使うことが絶対的な常識でした。杉や松などの針葉樹は樹脂のクセが強く、液体に過度な苦味や刺激を与えるとして長らく使われてきませんでした。

しかし屋久杉は別格です。
1993年に世界自然遺産に登録された屋久島で、栄養分の乏しい花崗岩の大地に根を張り、数百年から数千年をかけてゆっくりと育つ屋久杉は、年輪が極めて緻密で、樹脂の組成や芳香成分が一般の杉とは根本的に異なります。
現在は環境保全のため伐採が禁じられており、小牧蒸溜所が使用するのは、江戸時代に伐採されたまま搬出されずに森に残っていた「土埋木(どまいぼく)」。屋久島の工房と協力して調達した、文字通り替えの効かない素材です。
仕込み水には蔵のすぐ脇を流れる川内川の源、紫尾山系の天然伏流水を使用。
天然記念物「カワゴケソウ」が自生するほどの清流です。焼酎造りで長年使い続けてきた「和甕(わがめ)」も、ウイスキー製造に活かされています。
素焼きの陶器である和甕は微細な気孔から極微量の酸素を供給し、1世紀以上にわたって甕に棲み着いた固有の微生物が独特のフレーバーを生み出します。このメカニズムは、自然派ワインで知られるジョージアの「クヴェヴリ製法」と生化学的に共有するものです。
さつま町特有の激しい寒暖差も計算に入っています。周囲を山々に囲まれた盆地の気候は樽の「呼吸」を活発にし、熟成を早めます。これにより、重厚な樽香ではなくエレガントで軽やかなフルーティーさをスタイルの核に据えています。
国登録有形文化財の「石蔵」が育む円熟

原酒の熟成場所も普通ではありません。
幕末から明治初期に建てられ、国登録有形文化財に指定された「石蔵」を使用しています。外壁に使われた加治木石の高い断熱性・保湿性により、内部の温湿度が年間を通じて安定。急激な変化を抑えながら、エタノールと水が緩やかに馴染んでいく熟成環境を実現しています。
バーボン樽、オロロソシェリー樽、PXシェリー樽での熟成も石蔵内で並行して進んでおり、これらと屋久杉樽の原酒がどのようにヴァッティングされるかは、2026年冬まで明かされません。現在、屋久杉樽の原酒をテイスティングしているのは蔵の中でわずか2名のみです。
WWA2026金賞のニューボーンが、4月29日に初公開

正式ローンチに先駆け、2024年にリリースした蒸留直後の原酒「ニューポット2024」は、ノンピートとピーテッド(フェノール値50ppm)の2仕様ともに早期完売を記録しています。
2026年には「Komaki Whisky New Born Peated Malt」がワールド・ウイスキー・アワード(WWA)2026のヤングスピリッツ部門で金賞を受賞。
焼酎蔵が立ち上げた新興ウイスキー蒸溜所が、開始からわずか数年で世界的品評会のゴールドメダルを得たことは、100年以上にわたり培われてきた発酵・蒸留技術が、ウイスキーの世界でも通用することを証明するものです。
この受賞ボトルと製品版のボトルデザインが、4月29日に東京・六本木ヒルズで開催される「CRAFT SAKE WEEK 2026」にて初めて一般公開されます。










