長野県飯山市に拠点を置く飯山マウンテンファーム蒸溜所が、海外市場向けブランド名であるKiyokawa(きよかわ)を冠した初の公式シングルモルトウイスキー「The Cask」を、2026年3月19日に世界398本限定で発売します。
日本国内での公式な情報発信が皆無に等しい中、ドイツのウイスキー専門メディアなどで先行して報じられた本リリース。
そこには計算されたグローバル戦略と、独自のウイスキー造りの哲学が色濃く反映されています。

過酷な雪国が育む完全自社完結のファーム・トゥ・ボトル

日本の新興蒸溜所が直面する最大の課題は、原料大麦の調達です。
初期投資の負担や農地の確保が難しいため、大半の蒸溜所は海外産の大麦麦芽に依存せざるを得ないのが現状と言えます。
しかし、同蒸溜所は農業法人である合同会社MOST FARMを設立し、大麦の栽培から糖化、発酵、蒸留、熟成、瓶詰めに至る全工程を自社で完結させるファーム・トゥ・ボトルの道を選びました。
注目すべきは、最大3メートルもの積雪を記録する飯山市の過酷な気候を克服するため、科学者の協力を得て独自開発した六条大麦「雪花六条」を採用している点です。
冬の間は深い雪の下で休眠し、雪解けとともに黄金色を取り戻すという驚異的な生命力を持った大麦。
この徹底した地域資源へのこだわりが、海外のウイスキー愛好家に対して極めて強烈なオーセンティシティを放つ武器となっているわけです。
イタリアの技術と日本のテロワールが交差する製造工程

設備の構成も、伝統的なスコティッシュ・スタイルをそのまま踏襲する国内の多くの蒸溜所とは一線を画しています。
発酵槽にはイタリアのGarberotto社製木製タンクを使用し、木付きの乳酸菌によってフルーティーなエステル香を引き出しています。
さらに、初留と再留を担うのは、日本初導入となるイタリアのFrilli社製5,000リットル容量のポットスチルです。
創業者のデイビッド・トロイアーノ氏が持つイタリアでのネットワークをフル活用し、独特の還流を生み出す設計を採用することで、リッチで重厚なニューメイクスピリッツを抽出しています。
敷地内には日本の伝統的な和紙を製造する工房まで建設しており、最新の西洋設備と東洋の伝統工芸を物理的に融合させている点も、海外富裕層のインサイトを的確に突いたパッケージング戦略と言えるでしょう。
日本国内市場をバイパスする完全輸出主導型のビジネスモデル

今回のリリースにおいて最も特異なのは、地域密着型のモデルとは対極にある、徹底した情報統制と流通戦略です。
日本国内のメディアや酒販店に向けたプロモーションを意図的に省略し、世界最大級の日本酒類オンラインプラットフォームであるデカンタ(dekantā)と独占的なパートナーシップを結んでいます。
クラフト蒸溜所としては極めて異例となる食品安全の国際規格「ISO 22000」を取得しているのも、欧米の大手ディストリビューターや免税店との取引を前提とした布石と考えられます。
国内市場での価格競争や少量の卸売業務を回避し、最初からジャパニーズウイスキーというカテゴリーに強烈な付加価値を見出す海外のハイエンド市場へ直行する。
投資回収の速度とブランド価値の最大化を天秤にかけた、極めてドライで合理的な完全輸出主導型モデルというわけです。
ペドロ・ヒメネス樽で熟成された極限のフルスペック

今回リリースされる記念すべき初のシングルモルトは、ペドロ・ヒメネス(PX)カスクで3年間熟成された原酒を使用しています。
極甘口のシェリー酒を育んだ樽が、若い原酒のアルコール感を効果的にマスキングし、濃厚なドライフルーツやダークチョコレートのような味わいを短期間で構築しています。
アルコール度数は加水調整を行わないカスクストレングスの61.1%。
長野の激しい寒暖差が生み出すダイナミックな樽との相互作用を経て、標準的なシェリーバットから抽出されたと推測される最終的な生産本数は、世界でわずか398本です。
洗練された特製の木箱に収められたこの限定ボトルは、319.99ドル(約48,000円)という強気な価格設定で展開されます。
グローバルなプレミアム市場に狙いを定めた飯山マウンテンファーム蒸溜所のファースト・ドロップは、長野市での公式ローンチに先駆け、デカンタの公式サイトにてアーリーアクセスの受付を開始しています。

こういった姿勢をウイスキーラヴァー達がどう評価するのか、注視していきたいと思います。









