以前記事にした玉野アセンド蒸留所がファーストリリースを行うようです。
玉野アセンド蒸留所は来る2026年3月5日、待望のファーストリリースとなる新銘柄『拓駈(ひらく)』の試験販売を開始します。
同蒸留所は、酒類品評会であるTWSC2025において、ニューカマー賞(新人賞)を受賞しました。
原料の栽培から一貫して手がける同社の特異なビジネスモデルと、新銘柄のスペックについて考察していきます。
廃校舎とインフラ技術が融合した資源循環モデル

玉野アセンド蒸留所を運営するのは、大手建設コンサルタントである建設技術研究所のグループ会社です。
インフラ企業がウイスキー造りに参入した背景には、彼らの本業で培われたノウハウが活きています。
ポットスチルの耐荷重計算や複雑な配管工事など、蒸留所の設立に不可欠な高度なエンジニアリング。
彼らはそのプロジェクトマネジメント能力を活用し、廃校となった旧相馬市立玉野小学校の校舎を生産拠点へとリノベーションしました。
かつての理科室をテイスティングルームに転用するなど、地域の記憶を継承する空間設計は非常に見事と言えます。

さらに注目すべきは、極めて高度な資源の循環型システムを地域内で確立している点です。
都市下水から回収した栄養塩類を肥料として活用し、自社農園で主原料となるデントコーンやライ麦を栽培。
そして蒸留過程で出た穀物の搾りかすは、地元の酪農家へ良質な飼料として提供されています。
廃棄物を出さず、相馬市玉野地区という限定されたエリアで資源のループを回し切っているというわけです。
農業リスクを隠さない透明性とブランドの誠実さ

「土から育てるウイスキー」という理念は、常に自然の猛威というリスクと隣り合わせにあります。
事実、2025年の栽培シーズンには豪雨と深刻なイノシシの獣害に見舞われ、自社農場での収穫量が計画の50%にまで落ち込むという事態に直面しました。
国産100%を掲げる新興蒸留所にとって、原料の半減は極めて厳しい状況と言えるでしょう。
しかし、彼らの対応は非常に透明性の高いものでした。
生産を継続するために厳密に品質保証された北海道産デントコーンを代替調達したものの、玉野産の自社栽培分とは一切混和させなかったのです。
効率を優先すればブレンドしてしまうのが一般的な生産手法と言えます。
それを完全に別銘柄として区分管理し、SNS等で不作の事実を包み隠さず発信した彼らの態度は、愛好家からの信頼を獲得することに繋がると考えられます。
こうした妥協を排した真のクラフトアプローチが、今回のTWSCニューカマー賞という客観的な評価に繋がったのではないでしょうか。
3月5日発売の初銘柄『拓駈』のスペックと今後の動向

設立から3年目を迎え、彼らはついに初期の成果を市場に問う準備を整えました。
2026年3月5日、試験販売向け製品となる『拓駈』のニューメイクとニューボーンがリリースされます。
荒れ果てた農地の開拓から事業を切り拓いた創業メンバーたちの熱量が、このネーミングに込められていると推測できます。
ラインナップは、樽詰め前の無色透明なスピリッツと、オーク樽で1年間熟成させた製品の計4種類。

ニューメイクは樽詰め時と同じアルコール度数(63度)を維持しており、自社栽培のトウモロコシと霊山の湧水がもたらすピュアな穀物の甘みを確認するための指標となります。
一方のニューボーンは加水調整が行われ、アルコール度数(58度)でボトリングされます。
容量はいずれも300mlで、価格は税込5,500円。
総生産本数は1,000本というスモールバッチであり、主に福島県内の酒販店および公式ウェブサイトを通じて直販される予定です。
発売に先駆け、3月1日には福島市内のオーセンティックバーで、マスターディスティラーの渡邉氏が登壇するファンミーティングも開催されるようです。
地域のバーテンダーやオピニオンリーダーを巻き込む地道なマーケティング戦略が着々と進行しています。
長期熟成に向けたテストマーケティングの役割も担うこの『拓駈』。
次世代のクラフト蒸留所が提示するポテンシャルを、ぜひ味わってみてはいかがでしょうか。










