9月に正式に認められたイングリッシュウイスキーのGIに、蒸溜所2社が不服を申し立てました。
GIは、産地の名前を使える条件を法律で決める仕組みです。
申し立てたのは、バーミンガムのスピリット・オブ・バーミンガムと、ブリストルのサーカムスタンス蒸溜所です。2社が問題にしているのは、シングルモルトの条件にある「銅」です。GIそのものには、2社とも反対していません。
付与の経緯は、9月の記事で伝えました。
銅を使わない蒸溜所は、『シングルモルト・イングリッシュウイスキー』と書けない
GIには、イングリッシュウイスキーの中でも、シングルモルトの条件があります。
バッチ式のポットスチルで蒸溜すること。カラム式との併用はかまいません。ただし、蒸気が十分に銅に触れる必要があります。
銅は、蒸溜のときに不快な成分を取り除き、エステルなどの香り成分を生みます。硫黄系の嫌な香りを取る働きでも知られています。
この条件を作ったのは、イングランドの蒸溜所が集まる業界団体、イングリッシュ・ウイスキー・ギルドです。以下、ギルドと書きます。
ギルドの設立は、当時の記事で取り上げました。
スピリット・オブ・バーミンガムのポットスチルはステンレス製で、銅の部品がありません。
そのため、この条件を満たせず、「シングルモルト・イングリッシュウイスキー」とは書けなくなります。

「イングリッシュウイスキー」か「シングルモルトウイスキー」なら、書いてかまいません。英国環境・食料・農村地域省も、そう説明しています。
創業者で蒸溜責任者は、銅は反応を助けるだけで、なくても造れると言います。自社は銅のいらない工程を作り、廃液に銅の有害な化合物も出ません。
英国産の大麦とオーク樽を使い、発売した2回とも完売したのに、「イングリッシュ」を名乗れないのはばかげている、という訴えです。

サーカムスタンスは、ステンレスと銅の両方のポットスチルと、カラム式を持っています。
共同創業者が問題にするのは、条文が香りの成分を「望ましいもの」と「望ましくないもの」に分けている点です。何を望ましいとするかをギルドが決めれば、イングランドの味が狭くなる、という心配です。銅で成分を除くやり方は、環境にもよくないとも言います。
この共同創業者は、2022年にギルドを離れました。最初の案にあった銅の書き方などに、反対したためです。
仕様がスコッチに近すぎて、見分けがつかなくなるという懸念も、以前から口にしています。
スコッチ側は「緩い」、2社は「厳しい」

この条件は、両方から批判されています。
ギルドの最初の案では、銅のポットスチルが条件でした。
意見募集の途中で、「蒸気が十分に銅に触れる」という書き方に改められています。
2025年の意見募集には7件の異議が寄せられ、いちばんの論点が銅でした。
スコッチ側から見ると、これは緩すぎます。
スコッチウイスキー協会は、仕込みと発酵を蒸溜所の外で済ませたもろみを蒸溜しても、シングルモルトと名乗れる点を心配しています。スコットランド政府の経済担当の閣僚も、銅のポットスチルの条件を外したことに疑問を示し、手続きにも異議を唱える書簡を出しました。
一方、2社にとっては、厳しすぎる条件です。
ギルドは、会員がイングランドのウイスキー生産の約9割を占めると説明しています。
条件は、実際に行われている造り方を反映したもので、業界がまとまった結果だという立場です。
ギルド会長でコッツウォルズ蒸溜所のCEOは、認定を「決定的な瞬間」と歓迎しました。これで英国の4地域すべてが、保護されたウイスキーのGIを持つことになります。
イングランドのウイスキーは約30か国に輸出され、熟成中の原酒の価値は約10億ポンド(約1,900億円)とされています。
日本の表示基準は自主基準。英国のGIは法律

イングランドのウイスキーは、日本にも輸出されています。
今後は、ラベルの「シングルモルト」の書き方で、銅の条件を満たしているかが分かります。ステンレス蒸溜器の銘柄は、「イングリッシュウイスキー」か「シングルモルトウイスキー」のどちらかの表記になります。
日本のジャパニーズウイスキーの基準は、洋酒酒造組合が決めた自主基準です。原料、熟成年数、国内で造ることは定めていますが、蒸溜器の種類や素材までは決めていません。
日本の基準を巡る法整備の動きは、昨年3月の記事で取り上げました。
GIは法律で産地名を守る分、条件への不服が、裁判所と審判所の手続きに持ち込まれました。
不服申立ての結論が出るまで、ラベルの「シングルモルト」の書き方に注目です。










