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ペルノ・リカールが離脱。ブラウン・フォーマン買収劇の行方はどこへ

ペルノ・リカールが離脱。ブラウン・フォーマン買収劇の行方はどこへ

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4月28日、ジャック・ダニエルを擁するブラウン・フォーマンと、ジェムソン・アブソルートのペルノ・リカールは、約1ヶ月にわたった合併協議を正式に終了したと発表しました。

両社は2026年3月26日に協議を公式確認していましたが、「互いに受け入れられる条件に達することができなかった」として決裂。ブラウン・フォーマンはSECへ8-K(重要事項報告書)を提出し、合併協議の終了を法的に確定させました。

ペルノ・リカールがブラウン・フォーマンに買収交渉。実現すればディアジオに迫る巨人誕生

なぜ、話し合いは始まったのか

ことの発端は、スピリッツ業界全体を覆う構造不況です。

ブラウン・フォーマンは2025年度通年で売上高が前年比5%減、営業利益は22%減という厳しい結果を記録しました。特にカナダ市場ではトランプ関税への反発から消費者ボイコットが起き、売上が60%以上急落。従業員を12%削減し、樽製造工場を閉鎖・売却するなどリストラを急ぎました。株価は過去3年で60%超を失っています。

ペルノ・リカールも同様の苦境にあります。直近の上半期決算で売上は前年比4%減、株価も年初から31%下落しています。

そんな状況の中、規模を合わせてディアジオ対抗軸を作ろうという発想は自然でした。「マージャー・オブ・イコールズ(対等合併)」という名のもと、合算年商が160億ユーロ(約2.6兆円)規模の洋酒メジャーが誕生するはずでした。

「対等」という言葉の裏にあった溝

しかし合併が頓挫した背景には、二つのオーナーファミリーの「支配権」をめぐる根深い問題がありました。

ブラウン・フォーマンは1870年創業。創業家のブラウン家が5世代にわたって議決権の約3分の2を握り続けており、株式を上場しながらも実質的な同族会社として経営されてきました。ペルノ・リカールも同様に、リカール家が議決権の約21%を保有するファミリー企業です。

交渉のストラクチャーは株式交換が約80%、現金が約20%という混合型が検討されていました。ブラウン家は純粋な「完全売却」を望んでいたわけではなく、合併後の新会社においても一定の影響力を保持できることを条件にしていたとされています。一方でペルノ・リカール側も、連結後の債務構造や経済条件など、複数の論点で折り合えなかったと説明しています。

さらに決定打となったのが、協議が外部に漏れたことです。3月下旬に報道が出た後、ブラウン・フォーマンの株価は20〜30%急騰しました。バーンスタインのアナリスト、トレバー・スターリングはこう述べています。「株価がそれだけ上がってしまった後では、ペルノ・リカールが自社株主を怒らせずにブラウン家を納得させる条件を提示することは、ほぼ不可能になった」。

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サゼラックは「次の手」になるのか

ペルノ・リカールが退いた後、注目が集まるのはサゼラックの150億ドル(約2.2兆円)全額現金オファーです。バッファロートレース、アーリータイムズ、ファイアボールを傘下に持つ非上場の同族企業で、ゴールドリング家が経営します。

ただし市場の見方は冷淡です。

JPモルガンのアナリスト、ドリュー・レバインは「ペルノ・リカールとの取引に比べて戦略的な適合性が低く、独禁規制の障壁も高く、ブラウン家が望む経営関与も得られにくい。サゼラックによる買収の可能性は低い」とみています。

バークレイズとTDコーエンも、ブラウン・フォーマンの声明の文言から「単独経営路線への回帰を示唆している」と読み取っています。ブラウン・フォーマン自身は「地理的拡張とブランド構築、業務効率化に注力する」と述べており、M&Aへの傾斜を正面から否定した形です。

次の買い手候補としてバカルディやカンパリ、あるいは財務余力次第ではディアジオの名も一部アナリストから挙がっていますが、いずれも現段階では憶測の域を出ません。

日本市場への影響

ウイスキーファンとして無視できないのが、スコッチ3蒸溜所の行方です。

ブラウン・フォーマンは2016年にグレンドロナック、ベンリアック、グレングラッサの3蒸溜所を約2億8,500万ポンド(当時換算で約430億円)で一括取得し、スコッチ市場に本格参入しました。さらに2024年4月には日本市場での直接流通を開始し、これら3銘柄を戦略的に売り出してきました。

合併が実現していれば、これらの銘柄の位置付けはペルノ・リカールの既存スコッチポートフォリオ(グレンリベット等)と再整理される可能性があった一方、単独路線に戻ったことで少なくとも短期的には現体制が維持される見通しです。

ただ、構造不況下で業績が低迷するブラウン・フォーマンが、日本でのスコッチ3ブランドにどこまでリソースを投下し続けられるか。そこは引き続き注目点です。

オーツカ
サゼラックを「格下」と見て拒んだブラウン家が、ペルノとの交渉でも折り合えず単独に戻る。これは強さではなく、買収されるには高すぎ、単独では苦しいという「中ぶらりん」のまま続くということでもあります。グレンドロナックなど日本市場への影響も気になるところです。



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