神奈川県山北町の丹沢蒸溜所が、原酒の自社蒸留に乗り出しました。
2024年の稼働開始以来、スコットランド産の原酒をブレンドして仕上げる形でウイスキーを製造してきましたが、今年から念願だった蒸留そのものを自社で手がける段階に入っています。
備長炭で角を落とす、という独自のアプローチ

運営するのは東京都大田区の株式会社ゼロイチウイスキー、代表は橋口守氏です。
丹沢大山国定公園に連なる山北町中川の地下水を仕込みに使い、スコットランド産のモルト・グレーン原酒をブレンドしたのち、紀州備長炭で濾過する独自製法で仕上げるのが現行製品の特徴です。
度数46%、バーボン樽仕上げとシェリー樽仕上げの2種を展開しており、店頭価格は5,500円(700ml)です。
橋口氏は「各社個性的なウイスキーが多いが、好き嫌いは分かれる。短時間でアルコールのとげとげしさを丸くできないか」と試行錯誤を重ね、石での濾過や超音波、冷凍なども試した末に紀州備長炭に行き着いたと説明しています。狙っているのは主張の強い個性ではなく、食事に合わせやすい食中酒としての立ち位置です。年間生産量はおよそ4万本とのことです。

中国向けOEM輸出からの転換という文脈
ゼロイチウイスキーはもともと、惣菜を中心に手がける株式会社DELIもっとから分社化した会社です。
以前は山梨の会社に製造を委託したPBウイスキー「信玄」を、年間2万8千本ほど中国向けに輸出してきました。
2018年から自社蒸溜所の建設地を探し始め、2024年7月に山北町で稼働を開始。まずは仕入れた原酒を自社でブレンド・濾過する体制を整え、今回ようやく大麦からの自社蒸留という最終段階に踏み出した格好です。

この転換のタイミングは、日本産ウイスキーの輸出環境の変化とも無縁ではなさそうです。
国税庁のデータでは、日本産ウイスキーの中国向け輸出額は近年前年割れが続いており、中国国内でも独自のウイスキー蒸留所が急増しています。
中国向けOEM輸出に依存した事業モデルから、国内向けの自社ブランドへと軸足を移す動きは、丹沢蒸溜所に限らず、今後も他の中小蒸留所で見られる可能性がありそうです。
3年後を目途とする自社蒸留原酒のリリースが、その転換の成否を占う最初の指標になりそうです。
余談ですが、「丹沢蒸溜所」を名乗る計画は、実はもう一つ存在します。神奈川県秦野市で、地元の林業会社が2010年代後半から蒸溜所建設を構想しているウェブサイトが今も残っているのですが、目立った更新は2021年の建築設計コンペの告知を最後に止まっており、稼働時期は不明です。今回取り上げた山北町の蒸溜所とは運営会社・所在地ともに無関係の、別法人による計画です。









