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米ウイスキーが直面する3つの試練:在庫、規制、関税の複合危機

米ウイスキーが直面する3つの試練:在庫、規制、関税の複合危機

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アメリカンウイスキー業界が、いま深刻な局面に立たされています。

かつてのブームは影を潜め、現在は3つの異なる問題が同時に発生する「複合的な危機」に見舞われています。

これは、ウイスキー愛好家である私たちにとっても、製品の入手可能性や市場の将来に影響を与える可能性のある事態です。

業界は今

(1) 記録的な「過剰在庫」

(2) 政府閉鎖による「規制の停止」

そして

(3) 輸出を阻む「関税の脅威」

という、3つの課題に直面しています。

1. 規制の停止:ホリデーシーズンを直撃した政府閉鎖

最も緊急性の高い問題は、2025年10月に始まった米国連邦政府の一部閉鎖です。

これにより、アルコール・タバコ税貿易局(TTB)の業務がほぼ停止しました。TTBは、ウイスキーのラベル承認(COLA)や新しいブレンドの処方承認など、新製品を市場に出すために不可欠な許認可を担当しています。

この停止は、年間で最も売上が見込める第4四半期、つまりホリデーシーズン(年末商戦)の直前に発生しました。多くの蒸留所、特に小規模なクラフト蒸留所は、この時期に発売する限定ボトルや新製品の承認を得られないまま、身動きが取れない状態に陥っています。

米国クラフトスピリッツ協会(ACSA)の調査によれば、この政府閉鎖により、クラフト蒸留所は平均で約40,000米ドル(約600万円)、一部では100,000米ドル(約1,500万円)を超える収益損失が見込まれています。

2. 在庫問題:ブームの裏で膨らんだ「ウイスキー在庫」

第二の問題は、業界が抱える構造的な「過剰在庫」です。

過去10年間のウイスキーブームと、将来の需要拡大を見越して、各蒸留所は生産を大幅に増やしてきました。その結果、2024年末までにアメリカンウイスキーの在庫は、2012年比で3倍にあたる約15億プルーフガロン(アルコール度数を加味した容量単位)という記録的な水準に達しています。

この在庫量は、年間の国内販売量と輸出量を合計した総需要の約10倍以上とも言われており、需要と供給のバランスが大きく崩れています。

さらに、インフレや金利上昇といった経済的な圧力が、消費者の行動を変えつつあります。これまで市場を牽引してきた「プレミアム化」(高価格帯製品への移行)が鈍化しているのです。

具体的には、100米ドル(約15,000円)以上のカテゴリーの売上が落ち込む一方、消費者は17米ドルから50米ドル(約2,500円~7,500円)といった「手頃な贅沢」を選び始めています。また、RTD(すぐに飲める缶飲料など)や、好調なアイリッシュウイスキーといった他のカテゴリーとの競争も激化しています。

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3. 関税の脅威:閉ざされゆく「輸出」という活路

国内販売が鈍化し、記録的な在庫を抱える蒸留所にとって、本来「輸出」は最も重要な活路となるはずでした。しかし、その道もまた脅かされています。

2025年第2四半期の米国スピリッツの総輸出額は、前年同期比で9%減少しました。

最大の懸念は、欧州連合(EU)との貿易摩擦です。EUは、鉄鋼とアルミニウムの貿易問題に絡み、アメリカンウイスキーに対して50%という報復関税を再び課す可能性を示唆しています。過去に25%の関税が課された際、EUへの輸出額は20%急落しました。もし50%の関税が現実となれば、その影響は計り知れません。

三重苦に直面するアメリカンウイスキーの未来は?

現在のアメリカンウイスキー業界は、3つの問題が連鎖する厳しい状況にあります。

  1. 膨大な「在庫」を抱えている。

  2. 在庫をさばくための国内市場(新製品)が、「政府閉鎖」によって機能不全に陥っている。

  3. もう一つの活路である「輸出」が、「関税の脅威」によって閉ざされかけている。

この複合的な危機は、特に資金繰りに余裕のない小規模なクラフト蒸留所にとって、存続に関わる問題となっています。私たち愛好家としても、アメリカンウイスキー市場がこの困難な時期をどのように乗り越えていくのか、注意深く見守る必要があります。




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