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キリンが「フォアローゼズ」売却検討 評価額10億ドルの妥当性を読む

キリンが「フォアローゼズ」売却検討 評価額10億ドルの妥当性を読む

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キリンホールディングス(以下、キリン)が、ケンタッキー州ローレンスバーグの名門バーボン「フォアローゼズ」の売却を検討していることが報じられました。

英フィナンシャル・タイムズとロイターが相次いで伝え、評価額は10億ドル(約1,530億円、1ドル=152.8円換算)

オーツカ

これは超ビッグニュースです。驚いた。

アドバイザーはユー・ビー・エス(UBS)で、11月に一次入札の見込みとされています。現時点では検討段階で、成立は未確定です。

本稿では、ウイスキー専門メディアの立場から、ブランドの実像、生産体制、足元の市況、そして評価額の妥当性を中立に整理します。なお、通貨換算は日本銀行が10月24日に公表した当日のスポット中心相場(17時時点152.82–84円)を目安に行います。

何が起きているのか(事実関係)

報道によれば、キリンはUBSとともに買い手候補の関心を探り、早ければ来月にも第一ラウンドの入札に入る段取りです。

資産価値は約10億ドルとされ、年換算の調整後利益は約7,000万ドル(約107億円)との記述もあります。会社側はコメントを控えており、取引が成立する保証はありません。

キリンがフォアローゼズの事業権を取得したのは2002年。
長らく海外中心だった同ブランドをアメリカ市場に本格復帰させ、現在は全米50州で展開するまでに育ててきました。

フォアローゼズの魅力!その特徴と味づくり

フォアローゼズのマッシュタン

フォアローゼズの最大の特徴といえば、2種類のマッシュビル×5種類の自社酵母=10のレシピを使い分ける製法にあります。

高ライ麦と標準ライ麦の2系統のマッシュビルに、果実系・スパイス系など個性の異なる5酵母を組み合わせ、熟成後に最終の「メリーニング(ブレンド)」で狙った香味を作る手法です。スモールバッチ、シングルバレル、スモールバッチ・セレクトなどの個性は、このレシピ運用が土台になっています。

またシングルストーリー(平屋)型のリクハウスを用いる点もユニークです。温度差の影響を相対的に抑え、樽ごとの極端なばらつきを減らす狙いがあるとされます。フォアローゼズはケンタッキーで数少ない平屋主体の熟成を続ける蒸留所なのです。

フォアローゼズを学ぶ!味や種類、おすすめの飲み方

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生産・設備体制の現在地

フォアローゼズの蒸溜所

需要増に合わせて、同社は2010年代半ばから段階的な能力増強を進めてきました。2015年発表の拡張計画は総額約5,400万ドル(約82億円)。ローレンスバーグの蒸留設備増強に約3,400万ドル、コックスクリークの倉庫・ボトリング設備に約2,000万ドルを投じ、生産能力の倍増と雇用創出を掲げています。

ボトリング施設は6万平方フィート規模への拡張が進み、観光対応としてコックスクリークのビジターセンター(2014年開設)も整備されました。

ローレンスバーグの新ビジターセンター(2021年開設)も稼働しており、見学動線やテイスティング機能の拡充でブランド体験の受け皿を広げています。

オーツカ

ブランドデザインを一新したことも記憶に新しいですね。

フォアローゼズがブランド一新!135周年を迎え、ロゴやボトルのデザインをリニューアル

熟成在庫は高水準、観光は堅調だが、、、

ケンタッキー州全体の熟成中バーボン樽は2025年に1,610万樽と過去最高水準。
エイジング樽税(バレルタックス)は年間7,500万ドル(約115億円)まで膨らみ、段階的な制度見直しが決まっているとはいえ、当面はコストの重しになります。
樽が増えれば先々のボトルは増えますが、仕込みから出荷までには年単位の時間がかかり、短期の調整は簡単ではありません。

一方で観光は強いです。
ケンタッキー・バーボン・トレイルの来訪者は2024年に約270万人と最高を更新。ビジターセンターや直販の強化に追い風になっています。とはいえ、観光の好調がそのまま在庫圧縮や税負担の軽さに直結するわけではありません。現場は「よく動く銘柄を切らさず、無理のない価格で供給を続ける」ための配分と計画に、これまで以上に気を使う局面が続きます。

10億ドルの評価は高いのか

ざっくり言えば、年の稼ぎが約7,000万ドル(約107億円)の事業に、10億ドル(約1,530億円)の値札をつけにいく話と言えます。

ウイスキーの売買では、いまのボトルだけでなく、樽で眠っている「これから出てくる奇跡の一杯」や、見学施設・直販の力まで含めて値段が決まります。
だから一般的な消費財よりも高めに評価されることが多く、10倍台前半〜半ばは珍しくありません。

いまは在庫や税の重さと、観光や上位レンジの底堅さが同居しています。買い手が「うちの販路ならもっと伸ばせる」「上の価格帯を厚くできる」と見れば上振れ、慎重に見るなら控えめな提示になる。どれくらいの利益を「調整後」と呼ぶのか、在庫の見方をどう置くのか――前提の数字が開示された段階で、もう一段具体的に妥当性を点検することになると思います。

売却後の味わいは?日本市場と愛好家への影響をどう見るか

日本の棚でおなじみのスタンダード(いわゆる黄ラベル)、スモールバッチ、シングルバレル、スモールバッチ・セレクトは、いずれも「2種のマッシュビル×5種の酵母=10レシピ」の設計が土台です。レシピ・設備・人がそのまま受け継がれるなら、短期的に香味が大きく変わる可能性は高くありません。

変わり得るのは、供給配分(どの国にどれだけ回すか)、価格、限定品の扱いなどです。まずは米国内での操業計画と投資の継続がどう示されるかが最初のチェックポイント。慌てて買いだめするより、続報を確認してからで十分でしょう。

売り手・買い手としての見解はどうなる?

売り手(キリン)の狙い

米国の有力バーボン資産を現金化し、手元資金と事業の重点配分をそろえにいく動きです。為替や資本効率も視野に入るはずですが、発表前なのでコメントは控えめ、という姿勢でしょう。

買い手が見るポイント

グローバルの酒類メーカーなら「自社の流通に乗せてどれだけ伸ばせるか」。
投資ファンドなら「安定キャッシュフローと熟成在庫をどう育てるか」。
どちらにせよ、フォアローゼズの歴史と伝統、その魅力を理解したうえで、それを尊重し、どこを磨くか(上位レンジ、観光、直販)が要点です。

今後のスケジュールと注目点

今後の流れをおさらいすると

一次入札(11月見込み)
→候補絞り込み
→詳細確認
→最終入札
→契約・認可
という流れです。ここは事実として押さえつつ、私たちが見るべきポイントは「ボトルと現場」に近いところです。実際に役立つ着眼は次の3点。

味づくりの継続

10レシピ運用(2種マッシュビル×5種酵母)の方針が変わらないか。

熟成庫(平屋リックハウス)や蒸留・ボトリングの拠点がそのままか。

コア銘柄(黄ラベル、スモールバッチ、シングルバレル、スモールバッチ・セレクト)の仕様(度数・レシピの考え方・表記)が維持されるか。

入荷と価格の見え方

日本向けの割当(アロケーション)の量と周期。欠品や過剰な値動きが起きていないか。

公式価格の改定有無と、店頭実売への波及。限定品(LE、樽出しなど)の案内がどう出るか。

蒸留所・観光・直販の運営

ローレンスバーグ/コックスクリークのビジターセンターの営業、ツアーの枠や予約方法。

直販限定ボトルの扱い(発売頻度、購入ルール、現地イベント)に変更がないか。

公式の発信(サイト、ニュースレター、SNS)の更新頻度と内容の変化。

この3点は、所有者が誰になっても日々の体験(飲む・買う・訪ねる)に直結します。プロセスの進捗よりも、レシピ・設備・人材・配分がどう表明されるかに注目しておきたいところ。

フォアローゼズの価値は、10レシピと平屋熟成という作り方、その手触りを保つ人たち、そしてツアーと直販の受け皿が支えています。評価額10億ドル(約1,530億円)という数字はニュースとして大きいものの、愛好家が日々気にするのは香味の芯が守られるか手に入れやすさがどうなるかです。

まずは公式のアナウンスと、店頭・蒸留所が発する小さな変化のサインを静かに追う——それで十分だと思います。


注:本稿の通貨換算は、日本銀行の10月24日付「外国為替市況(スポット中心相場)」を目安に計算しました。市場の変動により実勢は異なる場合があります

ソーダストリームの体験記事

フォアローゼズの種類/ラインナップ

フォアローゼズ

こちらはフォアローゼズのスタンダードボトル。

バーボンファンからは親しみを持ってイエローラベルという愛称でも呼ばれています。

1888年にリリースされて以来、スムースかつスパイシーな味わいでウイスキーファンを唸らせてきた伝統あるバーボンウィスキーです。

香りはバラのようなフローラルとエステリー。

味わいは甘みがメインで、バーボン特有のエステリーさはそれほど感じずシナモン、イチヂクの甘みとハーブの香味が鼻腔を抜けます。

またレモンのような酸味も感じ、甘いだけではない複雑さを覚えるボトルです。

スタンダードにして非常によくできた逸品です。

フォアローゼズ ブラック

こちらはスタンダードの1ランク上位のボトル。1988年に発売されました。

スパイシーなK酵母と2種類のマッシュビルによって作られています。

香りはバニラ、カラメル、ビターチョコ、奥にアンズのようなフルーティさも感じます。

口に含むと重厚感のある樽のフレーバーが感じられます。

スタンダードボトルよりもフルーツ系の酸味は抑えられ、逆にチョコやカカオのビターさが浮き立ちます。

ハーブのスパイシーさも増しており、バーボンらしい無骨で飲みごたえのある1本です。

フォアローゼズ プラチナ

こちらはケンタッキー州200周年を記念して1992年に日本限定でリリースされたボトル。

長期熟成原酒の中から6〜7種類をベースにブレンドしている為、ブランデーやコニャックのようなスイート、フルーティさを感じます。

香りは落ち着いたバニラ、カラメル、ほのかな接着剤。

口に含むと唾液で一気に開くような感覚でドライフルーツ、ニッキ、完熟のイチヂクの甘み、最後にブドウの皮のような心地よい酸味とオークの余韻。

日本人好みにドストライク。極めてリッチでスイートなボトル。

本当にバーボンなのか?とラベルを見返す方もいるかもしれません。

フォアローゼズ シングルバレル

こちらは単一の樽から取り出した原酒をアルコール度数50度に調整しボトリングしたものとなります。

モルトファンにはシングルカスクと言えば分かりやすいかもしれません。

そして現行ラインナップの中で唯一ブレンドしていない原酒をシングルで楽しめるボトルとなります。

また熟成も7年以上かけてそれぞれの樽の個性が出てきたと見極めたものをボトリングしている個性あふれる逸品です。

香りはビターチョコ、若干のエステリー、ハチミツ、バラやカーネーションのフローラル。

味わいも心地よいビターフレーバーを筆頭に、バナナ、イチヂク、ドライプルーン、少しのカシス、余韻はブドウの皮、長い長いオーク。

複雑で柔らかい余韻が楽しめるリッチでスイートなデザート・バーボンです。

非常に完成度の高い商品で、愛飲家の中でもかなり高評価です。

ストレート、またはロックでどうぞ。

フォアローゼズ スモールバッチ

フォア・ローゼズ・ディスティラリー社

蒸溜所のマスター・ディスティラーが熟成のピークに達した樽の中から、完璧なバランスを持つスモールバッチ・バーボンをつくるのに適したフレーバーの異なる4樽を選びブレンド。

別名“マスター・ディスティラーズ・メロウ・チョイス”とも呼ばれ、メロウな味わいが特徴。ストレートもしくはロックがおすすめです。

香りはバニラ、カラメル、ウッディ、熟したチェリー、メイプルシロップ。

口に含むと鼻腔に丸みを帯びたエステリーとバナナの甘み、完熟のチェリーとイチヂク、ニッキ、シナモン、クローブのスパイシーへと変化します。

なお、毎年、数量限定のリミテッドエディションも販売されています。

リミテッドエディションは冷却濾過せず樽出しそのまま(バレルストレングス)でボトリングしている為、樽によってアルコール度数や個性が若干異なるのも面白い点です。シングルバレルに比べると加水調整無しなので、若干アルコールからの刺激は強いものフォアローゼズならではの素晴らしい香味を味わえる逸品です。




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