また一つ、日本のウイスキー地図に新たな点が灯ります。
2025年8月27日、北海道のほぼ中央に位置する東川町に、「丹丘蒸溜所(たんきゅうじょうりゅうしょ)」がオープン。
町の資源と世界レベルの才能が融合したこの蒸溜所では、今秋よりシングルモルトウイスキーの製造が開始される予定で、注目が集まっています。
「公設民営」という新しいかたち

丹丘蒸溜所の特筆すべき点の一つは、自治体である東川町と民間企業が連携する「公設民営」という、全国でも珍しい設立形態です。
「平成の名水百選」にも選ばれた大雪山系の雪解け水や、良質な米といった町の資源に、海外で実績を持つチームが着目。
町もその熱意に応え、新たな特産品づくりを支援する形でプロジェクトが始動しました。
これは、地域全体でウイスキーやジンを育んでいこうという、新しい挑戦のかたちです。
世界レベルの才能が集結した製造チーム
代表の一人であるチョウ・エイ・シュン(ジョセフ)氏は、香港のアイデンティティを表現したクラフトジン「Perfume Trees Gin」を開発し、国際的なアワードを受賞した人物。土地のボタニカルを活かしたスピリッツ造りのエキスパートです。
そして、ウイスキーファンが最も注目すべきは、マスターディスティラー(主任蒸留士)を務めるダーウェイ・シェイ(デイビッド)氏の存在でしょう。
彼は、スコットランドのヘリオット・ワット大学という、世界の蒸留技術者を輩出する最高学府で醸造・蒸留学の修士号を取得。
さらに、伝統的な製法で知られるハイランドのエドラダワー蒸溜所で蒸留技師として、またスペイサイド蒸溜所ではマスターブレンダーとして、本場のスコッチウイスキー造りの実務経験を積んできた、確かな技術を持つ人物です。
まずはジンから。ウイスキーへの序章

丹丘蒸溜所の最初のリリースは、クラフトジン「雪の窓」シリーズです。
東川町の清冽な地下水、地元の酒米から造る米麹、そして間伐されたトドマツの葉など、この土地ならではの素材を使用。「北海道の静寂の中にある美しさを、スピリッツで描き出す」という同社の哲学を体現した製品となります。
ウイスキーは最低でも3年間の熟成が必要なため、その間、このクラフトジンが蒸溜所の実力を世に示し、ブランドのファンを育んでいくことになります。
ウイスキーの未来と蒸溜所の展望
シングルモルトウイスキーの製造は今秋から始動とのこと。
スコットランドの伝統的な技術と、北海道東川町のテロワールが融合し、どのようなウイスキーが生まれるのか。デイビッド氏は「本場で磨いた技術をベースに、最新技術も取り入れた“温故知新”なウイスキー造りを目指す」と語ります。
蒸溜所には8月27日からショップが、翌28日からは見学ツアーも開始される予定です。
地域に根差し、世界レベルの技術で造られる「丹丘蒸溜所」のスピリッツ。まずはジンを楽しみながら、数年後に我々の前に姿を現すであろう、そのシングルモルトの誕生を心待ちにしたいと思います。