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ダブリンの新星に衝撃:ダブリン・リバティーズ蒸溜所が生産一時停止

ダブリンの新星に衝撃:ダブリン・リバティーズ蒸溜所が生産一時停止

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大きな成長を遂げてきたアイリッシュウイスキー業界に、大きな転換期が訪れています。

2019年に華々しくオープンした「ダブリン・リバティーズ蒸溜所(Dublin Liberties Distillery、以下DLD)」が、2025年5月より生産を一時停止すると発表し、業界内外に衝撃が走っています。

これは単独の出来事ではなく、アイリッシュウイスキー業界全体が直面する構造的な課題と「調整局面」を象徴している可能性があります。

ダブリンの新星、DLDが下した苦渋の決断

DLDの親会社であるクインテッセンシャル・ブランズは、「現在の市場環境を評価するため」として、2025年5月からDLDの生産ラインを一時的に停止することを正式に発表しました。再開時期は未定です。

この決定に伴い、蒸溜所に併設されたビジターセンターも一般向けの公開を休止しますが、流通業者や取引先との商談スペースとしての機能は維持されるとのことです。従業員への影響については現在協議中とされ、一部は配置転換や一時帰休が想定されています。

DLDは、約1,000万ユーロ(約17億円 ※現在のレートで換算)を投じて2019年2月に開業した、年間70万リットルの生産能力を持つ比較的新しい中規模蒸溜所です。

「ザ・ダブリナー」や「ザ・ダブリン・リバティーズ」といったブランドを擁し、その株主にはクインテッセンシャル・ブランズのほか、ストック・スピリッツ社(25%出資)も名を連ねており、今後の再開判断には両社の意向も影響すると見られます。

連鎖する生産調整:大手も踏み切る「戦略的ポーズ」

DLDの動きは氷山の一角かもしれません。アイリッシュウイスキー業界では、大手も同様の生産調整に踏み切っています。

  • アイリッシュ・ディスティラーズ社(ペルノ・リカール傘下): アイルランド最大のミドルトン蒸溜所で、2025年4月から夏まで生産を停止すると発表。「効率化のための周期的見直し」と説明しており、例年約1ヶ月のメンテナンス期間を大幅に延長し、在庫調整を図る動きと見られます。
  • ウィリアム・グラント&サンズ社: 主力のタラモア蒸溜所で、9基あるポットスチルのうち3基を2025年4月から約3ヶ月間停止し、年末にはさらに追加で停止する予定です。従業員の雇用は維持しつつ、操業規模を段階的に縮小しています。
  • キラーニー・ブリューイング&ディスティリング社: こちらはより深刻で、供給過多とコスト高から経営難に陥り、2025年4月に企業再生手続きに入りました。

これらの動きは、スコッチウイスキーやアメリカンウイスキーの業界でも見られており、一部報道では「ウイスキー3大生産国すべてで供給が需要を上回りつつある可能性」も指摘されています。

各社は「一時停止」や「規模縮小」という形でハードランディングを避けながら、過剰在庫とコスト高の是正という共通の課題に取り組んでいると言えるでしょう。

ブームの裏で何が? 数字で見る市場の光と影

アイリッシュウイスキーの輸出実績を見ると、2024年には輸出額が前年比13%増の約10億ユーロ、数量も1,500万ケースを突破し、コロナ禍前のピークを上回るなど、一見好調に推移しているように見えます。

特に最大市場である米国(輸出全体の約40%)向けは11%増と堅調で、インド、オーストラリア、日本といった新興市場も2桁から3桁の著しい成長を示しています。

しかし、その一方で課題も山積しています。

2023年の統計では、出荷数量は1,560万ケースと2.6%増だったものの、輸出額は8億7500万ユーロと前年から14%減少しており、価格戦略に苦慮した様子がうかがえます。また、2024年には英国向けの輸出が10%減少するなど、在庫回転の鈍化や価格競争の激化も課題となっています。

この背景には、いくつかの直接的な要因が挙げられます。

第一に、2021年から2023年にかけての「ウイスキーブーム」を見込んで各社が積極的に仕込んだ原酒が熟成期を迎え、業界全体で在庫が膨張。販売ペースを上回る原酒が貯蔵庫を圧迫し、キャッシュフローに影響を与えています。

第二に、ガラス瓶、エネルギー、大麦といった原材料コストが2022年以降高止まりしており、操業を続けるほど利益率が低下する状況にあります。

そして第三に、主要輸出先である米国市場において、インフレと金利上昇を背景に高価格帯スピリッツの消費が鈍化。「100ドル以上のボトルが動きにくい」との声も聞かれます。

構造的な逆風と、観光への影響

短期的な需給バランスの崩れに加え、構造的な逆風も吹いています。

米国向けの輸入関税が将来的に上昇するリスクや、インフレによる輸入業者のコスト増は懸念材料です。また、EU域内においてもアイルランドは酒税が高い国の一つであり、国内需要を圧迫しているという指摘もあります。

観光面では、アイルランドのウイスキー蒸溜所への来場者数は2023年6月から2024年6月までの1年間で80万人を超え、回復基調にはあるものの、2019年のピーク時(100万人強)にはまだ及んでいません。

DLDのようなダブリン中心部のビジターセンターの一般公開休止は、観光客誘致の面でも少なからず影響を与える可能性があります。

「調整」を経て成熟期へ:アイリッシュウイスキーの未来

こうした状況に対し、業界関係者からは「今回の一時停止は危機的状況というよりも、在庫管理とキャッシュフロー管理のための戦略的な手段だ」という冷静な見方も出ています。

アイリッシュウイスキー業界が、爆発的な急成長フェーズを終え、持続可能な成長を目指す「成熟期への移行」の過程にあるという産業ライフサイクル論で捉えることもできるでしょう。

現在の状況は、停滞というよりは、市場の健全化に向けた「調整と選別」の局面と言えるのかもしれません。

今後の注目ポイントとしては、まず大手3社(アイリッシュ・ディスティラーズ、ウィリアム・グラント&サンズ、そしてDLDの親会社クインテッセンシャル・ブランズ)が、この春から夏にかけての操業再開時期と、その後の稼働率をどう判断するかです

また、成長著しい新興市場(西アフリカ、東欧、東南アジアなど)へのシフトが、米国市場への依存度をどこまで緩和できるかも焦点となります。そして中長期的には、大麦価格の低下やエネルギー価格の安定が続けば、2026年度以降のフル操業復帰も現実味を帯びてくるでしょう。




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