パンデミック期を通じて、アメリカ全土で爆発的な成長を見せていたクラフト蒸溜所(小規模蒸溜所)のブームが、深刻な調整局面に直面しています。
最新の調査で、この1年間にクラフト蒸溜所の数が25%以上も減少したことが明らかになり、その影響はウイスキー製造に不可欠な樽の供給メーカーにも及んでいます。
蒸溜所を襲う「調整」の波

アメリカのクラフトスピリッツ協会(ACSA)が発表したデータによると、2024年8月から2025年8月までのわずか1年間で、全米のクラフト蒸溜所の数は3,069件から2,282件へと、25.6%も大幅に減少しました。
特に打撃が大きかったのはカリフォルニア州で、蒸溜所の数は379件から207件へと、45.6%も減少しています。
市場の縮小は2年連続となり、雇用者数もわずかながら減少し、業界全体が冷え込みつつあることが窺えます。
ここで留意すべきは、ACSAが定義する「クラフト蒸溜所」の規模です。
年間生産量が280万リットル未満の施設を指しており、これはスコットランドの中規模蒸溜所の多くが含まれるほどのサイズです。
単なる小規模な趣味の蒸溜所だけでなく、本格的な生産を行っていた施設も、この苦境に含まれていることを示唆しています。
供給網へと広がる余波
この蒸溜所の急速な縮小は、パンデミック後の需要鈍化や過剰な在庫が原因と見られていますが、その影響はウイスキー業界のサプライチェーン(供給網)へと波及しています。
ウイスキー、特にバーボンの製造には大量の新しいオーク樽が必要ですが、蒸溜所からの注文が減少したことで、樽やその部材を製造するメーカーが苦境に立たされています。
その象徴的な出来事が、アメリカン・ホワイトオークの樽材(ステイブ)を製造する、スタッゲマイヤー・ステイブ社の経営破綻です。

報道によると、取引銀行の一つが10月上旬、スタッゲマイヤー社が約400万ドル(約6億6000万円)の債務返済を履行していないとして、連邦破産法第7章(会社清算)を申請。これに対し、スタッゲマイヤー社自身も10月17日、連邦破産法第11章(事業再生)を申請しました。同社の負債および資産は、それぞれ100万ドルから1000万ドル(約1億6500万円から16億5000万円)の範囲にあると見積もられており、今後は裁判所が、同社が清算されるか再生の道を歩むかを判断することになります。
冬の時代はいつまで続くのか

この樽メーカーの苦境は、個別の問題ではありません。
最近では、大手樽メーカーのインディペンデント・ステイブ・カンパニーが112人を人員削減したほか、ブラウン・フォーマン社(ジャックダニエル親会社)が所有する2つのクーパレッジ(製樽所)を売却するなど、供給側での調整が相次いでいます。
パンデミック期に過熱したアメリカのクラフトウイスキーブームは、明らかに「ふるい」の段階に入りました。
蒸溜所の数が減少し、それに伴い樽の需要も減少するという一連の流れは、市場がより持続可能な規模へと収斂していく過程にあることを示しています。










