日本でのウイスキーブームはやや落ち着いてきましたが、その間に世界のウイスキー地図が塗り替えられるかもしれません。
アメリカで開催された「ラスベガス・グローバル・スピリッツ・アワード」において、インド産のシングルモルトウイスキー「インドリ トリニ」が、数多のスコッチやバーボンを抑え、最高賞である「ベスト・オブ・ショー」の栄冠に輝いたのです。

インドの「インドリ」とは何者か?

この快挙を成し遂げたのは、インド北部のヒマラヤ山麓に蒸溜所を構える、ピカデリー・ディスティラリーズ社が製造する「インドリ」ブランドです。2021年に立ち上げられた比較的新しいブランドですが、その品質は瞬く間に世界中の専門家を驚かせています。
インドリは、インド最大の独立系モルトメーカーの一つであり、サトウキビや穀物の農業も自社で行うなど、原料への強いこだわりを持っています。
快挙を成し遂げたボトルたち
今回の品評会で、インドリは3つの主要な賞を獲得し、その実力を証明しました。
インドリ トリニ(Indri Trini)- 最優秀賞 & ダブルゴールドメダル 今回の主役となったボトル。「トリニ」とはサンスクリット語で「3」を意味し、その名の通り、バーボン樽、フレンチワイン樽、そしてペドロ・ヒメネス・シェリー樽という3種類の樽で熟成された原酒をブレンドしています。複雑でバランスの取れた味わいが評価されました。驚くべきは、その価格が約55ドル(約9,100円)であるという点です。
インドリ ドゥル(Indri Druh)- プラチナメダル 「ドゥル」とはサンスクリット語で「木」を意味し、ドラム缶(大型の樽)で追加熟成された限定品。96点という高得点でプラチナメダルを獲得しました。
インドリ アグネヤ(Indri Agneya)- ゴールドメダル 「アグネヤ」とは「火」を意味する、インドリのピーテッド・シングルモルト。EXバーボンカスクで熟成され、穏やかなピートスモークと甘みのバランスが特徴です。最近アメリカ市場にもデビューし、価格は約80ドル(約13,200円)です。

10月1日より全米で発売されるライトピーテッドシングルモルトウイスキー「インドリ・アグネヤ」
インドウイスキーの強さの秘密
なぜ、比較的若い熟成年数のインディアンウイスキーが、これほど高い評価を得られるのでしょうか。その秘密は、インド特有の環境にあります。
秘密①「加速する熟成」 インドの高温多湿な気候は、ウイスキーの熟成を劇的に早めます。スコットランドでは年間約2%のウイスキーが蒸発(エンジェルズシェア=天使の分け前)しますが、インドではその率が年間10%以上に達します。これは、スコットランドの3〜4倍の速さで樽と原酒の相互作用が進むことを意味し、短い熟成期間でも非常に複雑で深みのあるフレーバーが生まれるのです。
秘密②「独自の原料」 インドリは、インドで伝統的に栽培されてきた6条大麦を使用しています。スコッチウイスキーで一般的に使われる2条大麦に比べ、6条大麦はより穀物由来の風味やスパイシーさが強くなる傾向があり、これがインディアンウイスキー独特の味わいの一因となっています。
今回のインドリの快挙は、単なる一回の受賞ではありません。
それは、台湾、そして日本に続き、インドという新たな勢力が、ワールドウイスキーのトップシーンに確固たる地位を築き始めたことを示しています。
これまでスコッチやバーボンが中心だったウイスキーの世界は、より多様で刺激的な新時代へと突入しました。