世界NO.1のバーボンブランド、ジムビームを擁するサントリーグローバルスピリッツは、ケンタッキー州クレルモンにある主要拠点「ジェームズ・B・ビーム・キャンパス(クレルモン蒸留所)」での蒸留作業を、2026年の1年間を通して完全に休止すると発表しました。
1795年の創業以来、230年近い歴史の中で禁酒法時代を除けば極めて異例の措置となります。
今回の決定は、単なるメンテナンスの枠を超え、現在バーボン業界全体を襲っている「過剰在庫問題」と「世界的な消費停滞」という深刻な逆風に対する、最大手による鮮烈な回答と言えるでしょう。

記録的な「バーボン過剰在庫」と冷え込む市場

今回の生産休止の背景にあるのは、数年前までのバーボン・ブームの裏側に蓄積された「膨大な在庫」です。 ケンタッキー蒸留所協会(KDA)のデータによると、現在州内のウェアハウスに眠るバーボンの在庫数は1,610万バレルという過去最高記録を更新しています。これはケンタッキー州の人口の約3倍以上に相当する量。
以前、当メディアでもバーボン市場の需給バランスについて触れたことがありますが、現在のアメリカ市場は「バブルの終わり」に直面しています。
米ギャラップ社の調査では、アルコールを摂取すると答えた成人の割合が54%と、1939年の調査開始以来最低レベルにまで落ち込んでいます。若年層を中心としたアルコール離れや、より高価なボトルを少量楽しむ傾向が強まる中、かつてのような大量生産モデルが限界を迎えているのが実情です。
関税戦争と税負担。追い詰められるケンタッキーの蒸留所

経済的な外部要因も今回の沈黙に拍車をかけています。
特にトランプ政権による貿易政策の影響は甚大。
カナダなどの主要輸出先による対抗関税やボイコット運動により、アメリカ産ウイスキーの輸出量は激減しています。カナダ市場における米国産スピリッツの売上は直近で60%も急落しており、グローバルな供給網を維持するコストが膨れ上がっています。
さらに、ケンタッキー州特有の「エイジング・バレル・タックス(熟成樽に対する固定資産税)」が追い打ちをかけます。樽を寝かせているだけで多額の税金が課されるこの制度により、業界全体で今年だけで7,500万ドル(約110億円)もの税負担が生じています。在庫を抱えれば抱えるほど経営が圧迫される構造となっており、生産の手を止めることで在庫の積み増しを防ぎ、課税対象となる資産をコントロールする狙いが見て取れます。
沈黙の1年。クレルモンが目指す「次の200年」への投資

生産休止となるのは、あくまでクレルモンのメイン蒸留所のみ。 「ブッカーズ」などのスモールバッチを手がける「フレッド・B・ノエ蒸留所」や、ボストンにある大規模な「ブッカー・ノエ蒸留所」での稼働は継続されます。また、クレルモンのビジターセンターや熟成庫、ボトリング施設も引き続き運営されるため、直ちに市場からジムビームが消えるといった混乱は起きないでしょう。
サントリーグローバルスピリッツは、この空いた1年間を「サイトの近代化と施設強化」のための投資期間に充てると説明しています。
人員削減は行わず、労働組合と協議しながら別の業務への配置転換を進める方針。生産能力を闇雲に拡大するフェーズから、効率性とブランド価値を高める「質への転換」へ。これは業界の盟主であるジムビームだからこそ可能な、長期的な攻めの姿勢とも解釈できます。
日本のウイスキーファンへの影響。そして今後の展望

ジムビームは日本市場においてもバーボンの代名詞として君臨しています。 結論から言えば、ハイボールでお馴染みの「ホワイトラベル」や「ブラック」などのスタンダード品が品薄になるリスクは極めて低いと言えます。
ジムビームはすでに2028年までの需要を満たす十分な在庫を保有しており、今回の休止は2030年代以降の需給を調整するための先制攻撃。
ただし、2026年に蒸留されるはずだった原酒が存在しないため、10年後、12年後の未来において、超長期熟成の「シングルバレル」や「リミテッドエディション」が一時的に稀少化する可能性は否定できません。]

ディアジオ社もテキサスの「バルコーンズ(バルコネズ)」やテネシーの「ジョージ・ディッケル」の生産を一時休止し、ブラウンフォーマン社もコーポレージを閉鎖するなど、業界全体が「耐える時期」に入っています。 巨大なインフラを止め、自らの足跡を見つめ直すジムビームの2026年。それは、バーボンが単なるブームから、真に持続可能な文化へと成熟するための通過儀礼なのかもしれません。
以前の「バレル」でも報じた、アサヒGHDによるディアジオのアフリカ事業買収などのポジティブなニュースとは対照的な、足元の厳しさを示す今回の決断。ウイスキーが「時間」を売る商売である以上、この1年の沈黙がどのような味の深みとなって将来のグラスに現れるのか、静かに見守りたいところです。
ウイスキー「ジムビーム」のラインナップ
ジムビーム(ホワイト)
ジムビームホワイトの名称でも呼ばれているレギュラーボトル。
最近ではコンビニなどでも購入可能な、世界一身近なバーボンとも言えるでしょう。
花のような香り、キャラメル、ほのかに香る樽香、上品なバニラ…。
味わいはバーボン特有の接着剤やエステリーががつんと前に出ますが、後からマイルドな甘みがしっかりと残るコストパフォーマンスの高いボトルです。
後味のキレはよく、お勧めの飲み方はロック、またはハイボールなど。
強めの炭酸水で割ると、爽やかなエステリーが香り立ち、更に美味しくいただけますよ。
ジムビーム ライ
通常バーボンはトウモロコシを主原料(全体の51%以上使用)としますが、こちらはライ麦を主原料に使用して作られたボトルです。
主原料が異なることで、ホワイトラベルとは異なる風味のラインナップです。
通常のジムビームは接着剤やセメダインに例えられるような香り、そしてバニラやナッツの甘みが特徴的ですが、ジムビームライは甘い香りは抑えられ、スパイシーでドライな味わいになっています。
バーボンが苦手な方でも飲みやすさを感じるボトルです。
ジムビーム ダブルオーク
こちらはバーボン樽で4年熟成した原酒をキツめにチャーリングしたアメリカンオークの新樽で3~6ヶ月後熟してできたボトルです。
ジムビーム従来の甘み、香りはもちろん、チャーリングからくるカラメル感や心地よいビター感が強調された一本です。
アルコールのアタックや接着剤のような香りは抑えられ、樽香の余韻がしっかり残るのでストレートでも美味しく飲めます。
個人的なお勧めはロックですがハイボールにしてもしっかり伸びるため、美味しく召し上がれます。
ジムビーム デビルズカット
どんなに気密性を保った樽でもウイスキーを熟成させる際には年間2%以上は自然揮発・蒸発してしまいます。
このウイスキーが目減りする自然現象は「天使の分け前(Angel’s share)」と呼ばれています。
これに対し樽に染み込んで取り出せなくなったウイスキーのことを「悪魔の取り分(Devil’s cut)」と呼ばれています。
ジムビームデビルズカットは樽に染み込んだ悪魔の取り分も取り出して6年の原酒にブレンドしたボトルです。
香りはバーボン特有の接着剤のような香りを更に強め、カラメル、バニラ分成分を強調した味わいとなります。
癖の強いバーボンが好きな方にはうってつけのボトルです。
ジムビーム ブラック
6年熟成させた原酒をボトリングした、シリーズ最高グレードの一本となります。
レギュラーボトルが4年熟成ですので、そこから更に2年間熟成を深めた味わいとなります。
エステリーな部分はそのままにダークチョコレート、ウエハースのようなうっとりする香り。
味わいはメロンやバニラアイスのような甘み、そしてほのかな酸味が特徴的です。
アルコールの刺激は抑えられ、ストレートでも飲めます。
ロックにすると接着剤の香りが強まり、ややトゲを感じます。ハイボールにするとバナナのような香りが花開きます。
どんな飲み方をしてもいける、多様性に富んだボトルです。
ジムビーム シングルバレル
ジムビーム熟成庫の中から手作業で選別された樽の高品質な原酒を、他の樽の原酒と混ぜ合わせずに単一樽にてボトリングされたもの。
アルコール度数47.5度ということで濃厚なジムビーム原酒を存分に楽しめる1本となります。
またジムビーム社の全生産量の1%未満しかシングルバレルとしてボトリングされないことから、希少性の極めて高いボトルと言えるでしょう。
口当たりから感じるどっしりとしたボディ、接着剤の柑橘系レモンピール、カシスの葉、ゆずのような和の香りも。
味わいは粘着質で濃厚で奥行きのあるバニラとカラメルの甘み、リッチで深いオークの余韻が楽しめる贅沢なボトルです。
ジムビーム シングルバレル 108プルーフ
日本未発売で、並行輸入でしか手に入らない54度のジムビーム。
シングルバレルは、手作業で選別された樽の高品質な原酒を、他の樽の原酒と混ぜ合わせずにシングルバレル(単一樽)でボトリング。
甘く力強くリッチな味わいは、フルボディ、スウィート、リッチ、オークとバニラ、カラメルの良いバランスを感じさせます。
上記の95プルーフよりもアルコール度数は高いですが、エステリー感はさほどでもなく、さすがと思わせるよいバーボンです。
ジムビーム ライワン
アメリカのニューヨークで「ライ・ウイスキー」が再認識され、若者を中心に人気が出てきている事から、造られた高級ライ・ウイスキーです。
この他にもジムビームではジムビーム・ライというボトルを販売していますが、それよりも口当たりスムースで、ライのフレーバーをストレートに感じることができる、ワンランク上のボトルと言えます。
ライウイスキーを好まれている方にはわかる洗練されたなめらかな口当たり、香りは乳酸とバニラ、カラメル。
甘みを抑えたスパイシーなテイスト、そしてほのかに香るペパーミントの風味、最後にオークの深い余韻を楽しめる上質なボトルです。
知る人ぞ知る名酒で、残っていたらラッキーかも。
















