写真出展©シーバスブラザーズ
スコッチウイスキー業界を長きにわたり牽引してきたシーバス・ブラザーズ社は、同社のマスターブレンダー、サンディ・ヒスロップ氏が引退することを発表しました。2026年1月をもって現在の役職を退き、名誉マスターブレンダーとしてブランドを支える立場へと移行します。
1983年のキャリアスタートから42年。バランタインやシーバスリーガル、ロイヤルサルートといった世界的なブランドの品質を守り、革新を続けてきた彼の功績は、ウイスキーの歴史に深く刻まれています。

バランタイン歴代5人目のマスターブレンダー

サンディ・ヒスロップ氏を語る上で欠かせないのが、『バランタイン』における功績です。 彼は2005年、190年以上の歴史を持つバランタインの「第5代マスターブレンダー」に就任しました。数多あるウイスキーブランドの中でも、これほど長い歴史の中でわずか5人しかマスターブレンダーが存在しない例は稀有であり、その重責は計り知れません。
特に日本市場で絶大な信頼と人気を誇る『バランタイン 17年』や『バランタイン 30年』。 これらの複雑で繊細な味わいが、いつの時代も変わらず「バランタイン」であり続けられたのは、サンディ氏が膨大な原酒在庫を厳格に管理し、ブレンドの品質を一切妥協しなかった証です。彼は伝統を守る守護者であると同時に、変化する気候や樽環境の中で常に最適解を導き出す、卓越した技術者でもありました。
ミズナラの系譜を受け継ぎ、進化させた功績

日本のウイスキーファンにとって馴染み深い『シーバスリーガル ミズナラ 12年』。 この画期的なウイスキーを生み出したのは、前任のマスターブレンダーであるコリン・スコット氏ですが、その精神を受け継ぎ、さらなる高みへと引き上げたのがサンディ・ヒスロップ氏でした。
サンディ氏は、コリン氏が切り拓いたミズナラ樽(ジャパニーズオーク)への挑戦を深化させ、2020年には『シーバスリーガル 18年 ミズナラ カスク フィニッシュ』を開発しました。 希少なミズナラ樽で18年以上熟成された原酒をフィニッシュに用いるというこの試みは、スコッチウイスキーと日本の風土との融合をより洗練された形で表現した傑作として知られています。
また、彼はシーバス・ブラザーズ全体のブレンディング・ディレクターとして、『ザ・グレンリベット カリビアンリザーブ』や『ロイヤルサルート』の革新的な限定品など、ブランドの垣根を超えた数々のヒット作を世に送り出してきました。
信頼する後継者、ケビン・バルムフォース氏へ

サンディ氏の後任として新たなマスターブレンダーに指名されたのは、ケビン・バルムフォース氏です。 ケビン氏は25年にわたりシーバス・ブラザーズに在籍し、そのうち20年間をサンディ氏と共に歩んできました。『バランタイン 7年』や『シーバスリーガル エクストラ 13年』の開発にも深く関わり、サンディ氏の哲学を最も近くで吸収してきた人物です。
サンディ氏は引退にあたり、「ウイスキー造りの喜びは、スコッチの遺産に忠実でありながら、新しいフレーバーを探求し境界を広げることにある」と語っています。師から弟子へ、その情熱と技術のバトンは確実に渡されました。
一時代の終わりと、変わらぬ味わい

サンディ・ヒスロップ氏の引退は、一つの時代の節目となります。 しかし、彼が厳選し、熟成を見守ってきた原酒たちは、これからも数十年先にわたり世界中のグラスに注がれ続けることでしょう。今夜は、彼が手掛けたバランタインやシーバスリーガルを手に、その長い旅路に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。










