世界最大のウイスキー消費国であるインドの酒類市場が、今、劇的な進化を遂げています。
国産シングルモルトの生産拡大、バーコミュニティの専門化、そしてノンアルコール市場の立ち上がりという、多角的なトレンドが同時に進行しており、その動向は世界のウイスキー業界から注目を集めています。

1. インド産ウイスキーの台頭と成長の原動力
インドのシングルモルト市場は、経済成長を背景に力強い拡大を続けています。

ゴア州に拠点を置くポール・ジョン (Paul John) 蒸溜所は、過去1年間で生産量を30%増加させ、これに対応するためゴア工場の拡張を完了しました。さらに、2025年1月〜10月期の販売量は前年同期比で20%の増加を記録しており、同ブランドがインド国内の主要なシングルモルトブランドとしての地位を確立していることを示しています。
この成長の背景には、インドにおける中間層および富裕層の拡大という経済的な要因に加え、自国産ウイスキーへの信頼が高まっていることがあります。アマラット(Amrut)などの先駆者や、ポール・ジョンが「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)」などの国際的な品評会で継続的に高い評価を獲得していることは、インドの消費者に「自国のウイスキーは世界に通用する」という意識を浸透させ、市場全体のプレミアム化を推進しています。
2. 市場の成熟を示す飲用文化の深化
ウイスキー市場の質的向上と並行し、インドの飲用文化そのものの成熟が進んでいます。

中断していた「インド・バーテンダー・ショー (India Bartender Show)」が、2025年12月にニューデリーで第4回として再開されます。このイベントは、バーテンダーや業界関係者にとってネットワーキングと学習の重要な機会であり、インドのバーコミュニティの専門化と技術力の向上を象徴しています。
カクテル文化の深化は、ウイスキーの消費を単なるストレートやハイボールといった既存のスタイルに留めず、より洗練された、多様な飲用機会へと広げる役割を果たしています。
3. 多様化する消費行動とノンアルコール市場の立ち上がり
もう一つの顕著な変化は、飲酒習慣の多様化に対応するノンアルコール市場の成長です。

ノンアルコールスピリッツブランド「クロッシプ (Crossip)」がインド市場に参入しました。創業者のカール・フォガティ(Carl Fogarty)氏が手がけるこのブランドの進出は、インドでもグローバルな「ソバーキュリアス(しらふを意識的に選ぶ)」のトレンドが顕在化していることを示唆しています。
特に若い世代であるミレニアル世代やゼット世代の間では、健康志向の高まりやライフスタイルの変化に伴い、アルコールを含まない質の高いドリンクオプションへの需要が拡大しています。このノンアルコール市場の立ち上がりは、インドの酒類市場が、より包括的で多様な消費行動に対応しようとしている進化の現れです。
インドの活力から考える次のステージ
ポール・ジョンに代表される国産ウイスキーの質的向上、バーコミュニティの成長、そしてノンアルコール市場という新たな領域の開拓。インドの酒類市場は、今、多角的な発展を遂げ、世界で最もダイナミックな市場の一つとなっています。
このインド市場の活気ある動きは、国内の消費構造の変化や将来的な市場の縮小が予想される日本のウイスキー業界にとっても、示唆に富んでいます。ウイスキー文化全体を支えるためには、高品質なボトルを継続的に提供し、多様な飲用スタイルや生活様式(カクテル、ノンアルコールなど)に柔軟に対応していく姿勢が、今後ますます重要になると思われます。









