ウイスキーの品質を決定づける熟成。その熟成を担う「樽」を支える重要な部品である「バンド材(帯鉄、タガ)」に関して、日本の金属加工技術が新たな一歩を踏み出しました。
日本金属株式会社は2025年11月6日、ウイスキー貯蔵用樽に使用するバンド材の製造・販売を開始したと発表しました。これは、兵庫県にある養父蒸溜所を運営する株式会社ウィズワンと共同開発したもので、これまで国内での対応が難しかった精密な形状のバンド材を国産化した点で注目されます。

樽を支えるバンド材(帯鉄)の役割

ウイスキーの樽は、一般的に接着剤や釘を使わず、オークなどの木製の側板(ステーブ)を組み合わせて作られます。この側板を外側から強力に締め付け、構造を保持し、内部のウイスキーが漏れないよう気密性を保つのが、金属製のバンド材(タガ)の役割です。
熟成庫は温度や湿度の変化があり、木材はわずかに膨張と収縮を繰り返します。バンド材には、こうした環境下で緩むことなく樽を締め付け続ける強度と、錆びにくい耐久性が求められます。
国内調達の壁となっていた「テーパ角」

今回の開発パートナーであるウィズワン社(養父蒸溜所)は、2023年からウイスキー製造を開始しており、将来的に樽のリメイク(修理・再生)を自社で行う計画を持っています。樽本体は海外からの輸入に頼っていますが、リメイク時に必要となるバンド材については、国内からの調達を希望していました。
しかし、ウイスキー樽は中央部が膨らんだ独特の曲線(稜線)を描いています。そのため、バンド材も単なる真っ直ぐな輪ではなく、樽の傾斜に合わせた円錐台の一部のような角度、すなわち「テーパ角」を正確につける必要があります。
プレスリリースによれば、この精密なテーパ角を持つリング状の加工は難易度が高く、国内の多くのメーカーでは対応が困難な状況でした。
精密加工技術による課題解決
この課題に対し、日本金属は福島工場が持つ精密加工技術で応えました。
同社は、帯状の薄板を複数のロールで少しずつ成形する「ロールフォーミング技術」と、金属を目的の断面形状へ連続的に加工する「異形圧延加工技術」を組み合わせました。
材質には、熟成庫の厳しい環境に対応する「高耐食めっき鋼板」を使用。これらの技術を駆使し、約1年にわたる試作開発を経て、樽の稜線に正確にフィットするテーパ角を持つバンド材の量産技術を確立したとのことです。
養父蒸溜所でのリメイクと今後の展望
今回の共同開発者である養父蒸溜所は、兵庫県養父市に位置する新しい蒸溜所です。2026年秋にオリジナルブランドのジャパニーズウイスキーの発売を予定しています。
新しい蒸溜所が自社で樽のリメイク体制を計画している点は興味深い動きです。ウイスキーの品質管理において、樽の修理や再活性化(リチャーなど)は非常に重要ですが、国内で専門的な樽の修繕(クーパレッジ)を行える場所は限られています。
ウィズワン社は、今回の国産バンド材の完成に伴い、2025年12月よりこのバンド材を使用した樽のリメイクを開始する予定です。
これまで輸入に頼ることが多かったと推測される高精度な樽用バンド材が、国内の金属加工技術によって安定的に供給可能になることは、養父蒸溜所にとって大きな意味を持つでしょう。さらに将来的には、国内の他の蒸溜所、特に樽の調達やメンテナンスに独自の工夫が求められるクラフト蒸溜所にとっても、樽管理の選択肢を広げる可能性を秘めているといえます。









