ブレンデッドスコッチの王道「シーバスリーガル」が、その伝統的なイメージを根底から覆す、画期的な新製品「シーバスリーガル クリスタルゴールド」を発表しました。
最大の特徴は、オーク樽で熟成させた黄金色のスピリッツを、独自開発の技術でクリスタルのように透明に仕上げている点です。
「クリスタルゴールド」とは何か?―技術的ブレークスルー

この製品は、法規上「スコッチウイスキー」ではありません。「スピリッツ・ドリンク」という新しいカテゴリーに分類されます。
その製造プロセスは、まさに技術的な挑戦でした。
まず、マスターブレンダーのサンディ・ヒスロップ氏が、シーバスリーガルのハウススタイルを表現する特別なウイスキーブレンドを造ります。そして、3年近くかけて開発された独自のろ過(フィルトレーション)システムを使い、特殊な温度と流量の管理のもと、樽熟成によって生まれた色だけを取り除き、熟成感がもたらす複雑なフレーバーは保持する、という非常に難易度の高いプロセスを経て生み出されます。
スコッチウイスキー協会(SWA)との協議の結果、スコッチウイスキーとしての商品化は行わず、「スピリッツ・ドリンク」として分類するために、ごく微量(0.1%)のニュースピリッツ(新酒)を添加しているとのこと。これは、スコッチの伝統を守りつつ、革新へ挑むための巧みなアプローチです。
なぜ今、「透明」なのか?―ブランドの狙いと市場の変化
シーバスリーガルが、なぜこれほど大胆な製品を開発したのでしょうか。その背景には、世界の飲用トレンドの大きな変化があります。
ホワイトスピリッツ市場への挑戦: 近年のアルコール市場では、スプリッツやテキーラベースのカクテルのように、より軽く、日中の早い時間から楽しめるホワイトスピリッツ(ジン、ウォッカ、テキーラなど)の人気が高まっています。クリスタルゴールドは、ウイスキーが traditionally 苦手としてきた、そうした「ハイエナジーなシーン」や「明るい時間帯」に、熟成スピリッツならではの複雑な味わいを提供するという狙いがあります。
ブランドイメージの刷新: 「伝統的」「クラシック」というイメージが強いシーバスリーガルに、革新的で現代的な風を吹き込み、アジアやラテンアメリカといった、よりダイナミックな新興市場の若い層にアピールしたいという戦略的な意図があります。特に、メキシコで大成功した「クリスタリーノ・テキーラ」(熟成テキーラを透明にしたもの)の現象も、この製品開発のヒントになっているようです。
味わいと製品情報

重要なのは、透明でありながら、味わいは紛れもなくシーバスリーガルである、という点です。
テイスキーティングノート:
香り: アップルパイ、バニラファッジ、クリーミーなバタースコッチ、オレンジの皮。
味わい: 赤いタフィーアップル、洋ナシ、シナモンとジンジャーのヒント。
砂糖や香料は一切添加されていません。
製品情報:
品目: スピリッツ・ドリンク
アルコール度数: 40%
希望小売価格: 51ポンド/68ドル(約11,000円前後)
ブランドアンバサダーにはF1ドライバーのシャルル・ルクレール氏が就任し、「ルクレール・スプリッツ」というシグネチャーカクテルも考案されています。
シーバスリーガル自身も「大きな賭け」と認めるこの「クリスタルゴールド」。
ウイスキー業界の巨人が、自らのブランドイメージをリスクに晒してまで挑む、興味深い一手ですね。