ウイスキーの歴史が、また一つ、新たな章へと進みます。
スコットランドの伝説的なボトラーである「ゴードン&マクファイル(G&M)」が、世界最長熟となる85年熟成のシングルモルトスコッチウイスキーを、2025年10月にリリースすることを発表しました。
これまでの記録であった84年熟成を上回る、歴史的な一本になりそうです。
「ミスター・ジョージ」のビジョン

©Gordon & MacPhail ジョージ・アークハート氏
このウイスキーの物語は、第二次世界大戦の激動の時代、1940年2月3日に始まります。
G&Mの二代目当主であるジョージ・アークハート氏(通称:ミスター・ジョージ)と彼の父ジョンが、ザ・グレンリベット蒸溜所で生まれたニュースピリッツを、一本のアメリカンオーク樽(カスクNo.336)に満たしました。
特筆すべきは、ジョージ氏がこの樽詰めを行った際、「自分自身がこのウイスキーを味わうことは決してないだろう」と悟っていたことです。
これは、利益のためではなく、未来の世代への贈り物として、最高のウイスキーを後世に残すという、彼の壮大なビジョンと忍耐の証でした。
そして85年後の2025年2月5日、G&Mを継ぐ四代目の家族は、このウイスキーが熟成の頂点に達したと判断。
樽が開かれ、アルコール度数43.7%の、まさに「生きている歴史の一片」とも言える液体が、わずか125本のデキャンタにボトリングされました。
ジャンヌ・ギャングのデザイン

©Gordon & MacPhail ジャンヌ・ギャング氏
この歴史的ウイスキーを収める器は、それ自体も芸術作品となりえます。
G&Mは、国際的に評価の高いアメリカ人建築家、ジャンヌ・ギャング氏とのコラボレーションを発表。「オークの芸術性」をテーマに、特別なデキャンタがデザインされました。
ジャンヌ氏は、「ウイスキー造りも建築も、素材や時間という要素が重要な役割を果たします。
どちらも“永続的な何か”を創造するという点で、非常に刺激を受けました」と語ります。この唯一無二のデキャンタの全容は、2025年10月に公開される予定で、世界の注目が集まっています。
未来へ繋ぐチャリティーというレガシー
このプロジェクトは、未来への遺産というテーマで一貫しています。
記念すべきデキャンタの第一号は、2025年11月にニューヨークのクリスティーズでチャリティーオークションにかけられるとのこと。
その収益は、アメリカで最も歴史ある自然保護団体「アメリカン・フォレスツ」に寄付されます。
85年間ウイスキーを育んだアメリカンオークの樽。その恩恵を、未来のアメリカンオークの森林保全へと還元するという、美しく、意義深いストーリーです。
130年以上にわたり、最高のタイミングが来るまで辛抱強くウイスキーを熟成させ続けるという哲学を貫いてきたゴードン&マクファイル。
今回のリリースは、その哲学の集大成と言えるでしょう。
世代を超えたビジョン、職人技、そして未来への責任が一つになった、壮大な物語の幕開けとなりそうです。