北海道富良野市で、世界水準のウイスキー蒸留所を建設するプロジェクトが2025年6月5日に発表されました。
ウイスキー製造の「軽井沢蒸留酒製造」、リゾート開発の「西武ホールディングス」、そして「富良野市」の三者が連携し、2028年度の開業を目指します。
本計画は、急増する国内外のウイスキー需要と、通年型観光地への進化を目指す富良野の方向性が合致した、戦略的な事業として注目されています。
プロジェクト概要:体験価値と持続可能性を核に
計画される蒸留所の名称は「富良詩(ふらりす)蒸留所」です。
これは富良野市と至福を意味する英語「bliss」を掛け合わせたもので、新富良野プリンスホテルに隣接する森の中に建設されます。
スキー場から車で約2分という、観光客にとって利便性の高い立地です。
プロジェクトのコンセプトは「体験」で、ウイスキーの製造工程を見学できるツアーに加え、富良野の食材とウイスキーのペアリングを提供するレストラン、製品の直売所が併設されます。
また、蒸留過程で生じる大麦麦芽の搾りかすを焼き菓子として再利用・販売する「アップサイクル」の取り組みも計画されており、持続可能性への配慮も事業の柱となっています。
スケジュールは2026年春に着工、2028年度に蒸留所を開業し、3年以上の熟成期間を経て2031年度からの商品販売開始を予定しています。
三者連携の戦略性:専門技術、観光基盤、行政支援の融合
本プロジェクトの実現性を高めているのが、各社の強みを活かした三者連携の枠組みです。
軽井沢蒸留酒製造: 長野県小諸市で既に蒸留所を運営しています。同社が手掛けた「軽井沢1960年」はオークションで日本産ウイスキーの世界記録を更新するなど、その製造技術とブランド力は国内外で高く評価されています。同社の島岡高志社長は「富良野の気候や風土を丁寧に読み解き、この地にしかないウイスキーと体験を創り出す」と述べています。
西武ホールディングス: 富良野スキー場やプリンスホテルを長年運営し、地域の観光インフラを熟知しています。西武HDの後藤高志会長兼CEOは「富良野をオールシーズンで国内外の人を引きつける国際観光地に成長させることが使命」と語り、既存のリゾート施設との相乗効果を狙います。
富良野市: 北猛俊市長は「官民、地域が手を取り合い、持続可能で富良野らしい観光の形を築きたい」と表明しており、行政としてプロジェクトを全面的に支援します。
この連携は、ウイスキー製造の専門性、広大な土地と観光基盤、そして円滑な事業推進を支える行政支援が一体となった、戦略的な提携と分析できます。
市場と地域の文脈:成長市場への参入と地域課題への貢献
本プロジェクトは、周到な準備期間を経て発表されました。2023年の時点で富良野市では蒸留所計画が水面下で進んでおり、資材高騰などの外部要因を考慮しながら建設のタイミングが計られていたことが分かっています。
背景には、活況を呈するジャパニーズウイスキー市場があります。
市場規模は拡大を続け、クラフト蒸留所の新設も相次いでいます。
ウイスキー製造の特性を活かした「蒸留所ツーリズム」は、新たな観光資源として地方経済への貢献が期待されています。
軽井沢蒸留酒製造のイアン・チャン副社長は、富良野の冷涼な気候が「繊細で重層的なウイスキー」造りに適していると指摘しており、地理的優位性も事業の成功を後押しする要因です。
近年、富良野は「第2のニセコ」として注目を集め地価が高騰する一方、観光客の集中による課題も抱えています。
通年で稼働する蒸留所は、観光シーズンの平準化に寄与し、富良野の持続可能な発展に貢献する可能性を秘めています。生産されるウイスキーは将来的に半数の海外輸出を目指しており、富良野の名を冠した製品が世界の市場に挑戦することになります。
2026年春に着工し、2028年度に蒸留を開始。そして3年以上の熟成を経て、富良野産シングルモルトウイスキーが市場にデビューするのは2031年度の予定です。将来的には生産量の半数を海外へ輸出するという大きな目標も掲げられています。
