2025年11月18日、世界最大級の酒類メーカーであるディアジオ(Diageo)は、スコットランドのスペイサイドにあるローズアイル製麦工場(Roseisle Maltings)の操業を一時停止すると発表しました。
ウイスキー業界に関するニュースは、近年明るい話題が続いていましたが、ここ数日は厳しい報道が相次いでいます。今回の決定は、世界的なウイスキー需要の減速と、それに伴う在庫調整が本格化している現状を浮き彫りにしました。

蒸溜所ではなく「製麦工場」の停止

Picture: Daniel Forsyth. Image No.
今回操業が停止されたのは、ローズアイル「蒸溜所」ではなく、同敷地内にある「製麦工場(モルティングス)」です。
スコットランドの多くの蒸溜所は、自社で大麦の発芽処理(フロアモルティング等)を行わず、専門の製麦工場からモルトを調達しています。ディアジオはスコットランド内にバーグヘッド、グレンオード、ポートエレン、そしてローズアイルという4つの製麦施設を所有しており、これらが国内の多数の蒸溜所へ原料を供給しています。
ローズアイル製麦工場は1980年代初頭から稼働しており、2010年に同敷地内で稼働を開始したローズアイル蒸溜所(2023年に初のシングルモルトをリリース)よりも長い歴史を持ちます。
需要と供給のバランス調整
ディアジオの声明によると、今回の措置は「現在の需要に対して生産能力のバランスをとるため」とされています。具体的には、2026年6月まで生産を停止する計画ですが、再開時期については今後の状況次第で「検討中」とされており、予定よりも長引く可能性があります。
背景にあるのは、パンデミック後のウイスキーブームが落ち着きを見せ、消費者の需要が「正常化」あるいは「減速」していることです。熟成中の在庫が十分に確保されているため、新規の生産を抑制する必要に迫られています。
世界的な生産調整の動き
この動きはローズアイルに限った話ではありません。ディアジオはすでに、スコットランドのティーニニック蒸溜所(Teaninich)に加え、アメリカのバルコネズ(Balcones)やジョージ・ディッケル(George Dickel)といった蒸溜所でも生産の一時停止を行っています。
他社においても同様の傾向が見られます。ブラウンフォーマン(Brown-Forman)傘下のグレングラッサ(Glenglassaugh)は約1年前に生産を一時停止し、アイルランドのミドルトン(Midleton)も2025年春に一時的な停止措置をとりました。
さらに、競合の製麦会社であるベアーズモルト(Bairds Malt)も、「中期的な需要減少」を理由にペンケイトランド製麦工場(Pencaitland Maltings)の閉鎖を発表しています。
雇用と農家への影響
ローズアイル製麦工場の従業員については、ディアジオ内の他部門へ配置転換されるため、解雇は行われないとのことです。一方で、ベアーズモルトの閉鎖では19名の雇用が失われると報じられています。
また、この生産調整は原料供給元である大麦農家にも影響を及ぼします。製麦工場が稼働を止めれば、当然ながら原料用大麦の買い取り需要も減少するため、地域経済全体への波及が懸念されます。
今後の見通し
ディアジオはスコッチウイスキーの長期的な成長には依然として自信を持っていますが、短期的には「在庫レベルに合わせた生産能力の管理」を徹底する構えです。
今回のニュースは、ウイスキー市場が拡大一辺倒のフェーズから、より慎重な調整局面に入ったことを示唆しています。
日本のウイスキーファンにとっても、世界的な需給バランスの変化が今後の価格やリリースにどう影響するか、注視が必要な状況と言えるでしょう。









