スコットランド・アイラ島のブルックラディ蒸溜所が、ブランド初となるRTD(Ready-to-Drink)商品「ザ・ラディ・ハイボール」を2025年9月23日より全国のローソン・ナチュラルローソン限定で発売します。
昨今になってにわかに増えてきた各ブランドのRTD缶。
近年のウイスキー市場とRTD市場の大きな変化を象徴するニュースですね。
本稿では、市場背景、ブルックラディのブランド哲学、そして競合の動向を交えながら、この新商品が持つ戦略的意義を深く掘り下げていきます。
ブルックラディ、初のRTD缶をローソン限定発売。その背景にある市場の変化とは

スコットランド・アイラ島のウイスキー界における革新者、ブルックラディ蒸溜所が、ブランド初となるRTD(Ready-to-Drink)商品「ザ・ラディ・ハイボール」を2025年9月23日より、全国のローソン・ナチュラルローソン店舗限定で発売することを発表しました。
この「ザ・ラディ・ハイボール」は、蒸溜所のフラッグシップであるノンピートのシングルモルト「ブルックラディ ザ・クラシック・ラディ」をベースに、日本のために開発された特別なブレンドを使用しています。アルコール度数は8%、容量は350mlで、価格は税込600円。BSフジの人気番組「ウイスキペディア」とのコラボレーションにより開発されました。
マスターブレンダーのアダム・ハネット氏が日本のハイボール文化に感銘を受けたことがきっかけとなり、ブランドの魅力をより多くの人々に届けることを目指しています。この一本の缶の登場は、近年のウイスキー市場とRTD市場の大きな変化を象 徴する、注目すべき出来事です。
なぜ今、ブルックラディがRTD市場に参入するのか

今回のブルックラディの動きを理解するためには、現在のRTD市場が経験している質的な変化を把握する必要があります。かつて日本のウイスキー市場を再生させたハイボール文化は、RTD市場においても大きな流れを作りました。
当初、RTD市場の価値は「手軽さ」や「安さ」にありました。しかし、世界的な市場の成長と共に、消費者の嗜好は多様化・高度化しています。特に近年は「プレミアム化」が顕著なトレンドとなっており、消費者は単なる利便性を超え、品質、ユニークな味わい、そして製品の背景にある物語やブランドの哲学といった付加価値を求めるようになっています。
この市場の成熟が、ブルックラディのような哲学を重視するクラフトウイスキーブランドにとって、自らの価値を損なうことなく参入できる土壌を育んだのです。RTD缶は、高価なボトル購入への心理的ハードルを下げ、ブランドの個性を気軽に試せる「世界観への入り口」として、有効なマーケティングツールとなり得ます。
ブルックラディという「哲学」を缶に込めるということ

「ザ・ラディ・ハイボール」が税込600円というプレミアムな価格帯で設定されている背景には、ブルックラディ蒸溜所が貫いてきた妥協のない哲学があります。1994年に一度閉鎖された後、2001年に劇的な復活を遂げたこの蒸溜所は、ウイスキー業界に「テロワール」という概念を持ち込みました。原料となる大麦の産地や風土がウイスキーの味わいを決定づけるという考え方です。
また、環境や社会に配慮した企業に与えられる国際認証「Bコーポレーション」をスコッチウイスキー蒸溜所として初めて取得するなど、持続可能性へのコミットメントもブランドの核となっています。ウイスキー本来の味わいを守るため、冷却ろ過を行わない「ノンチルフィルタード」製法を貫いているのも、その哲学の表れです。
今回のRTD缶は、これらの哲学を一切希釈することなく、缶というフォーマットで表現する試みです。ベースに使用される「ザ・クラシック・ラディ」は、ノンチルフィルタードでアルコール度数50%というリッチなテクスチャーを持つウイスキー。これを贅沢に使うことで、プレミアムな価格に見合うだけの品質と、ブランドの姿勢を消費者に伝えています。
熾烈化するプレミアムRTD市場の競合たち

ブルックラディが参入するプレミアムRTD市場は、すでに国内外の多様なプレーヤーが個性を競う場となっています。
大手サントリーが山崎、白州、Aoといった商品を次々と缶ハイボールで登場させる中、他の海外ブランド、新興国内蒸溜所もRTD市場に続々と参戦しています。
ビッグピート(スコッチ): ブルックラディと同じアイラ島のモルトをブレンドした製品。強烈なスモーキーさというブランドの核を維持しつつ、400円台という価格で幅広い層にアピールしています。
ジャックダニエル(アメリカン): 世界的なブランドである「ジャックダニエル&コカ・コーラ」のRTDは、ブランド体験を手軽に提供する戦略の好例です。ウイスキーそのものの個性を楽しむハイボールとは異なるアプローチで、巨大なファンベースを築いています。
ハリークレインズ(ジャパニーズ): 日本のクラフトハイボール缶の先駆者、三郎丸蒸溜所の製品。添加物ゼロの本物志向と、9%という高いアルコール度数が特徴です。
日の丸ハイボール(ジャパニーズ): 木内酒造がBSフジ「ウイスキペディア」とコラボレーション。製品とメディアコンテンツを連携させ、消費者の知的好奇心を満たすことでエンゲージメントを高めています。
これらの事例が示すように、市場はスモーキーさ、ブランド体験、本格志向、メディア連携など、多様な価値提案で細分化されています。ブルックラディは、「ノンピートの華やかな味わい」と「ブランドの哲学」を武器に、この競争の激しい市場に挑むことになります。
ウイスキーの未来を占う「小さな缶」
ブルックラディ「ザ・ラディ・ハイボール」の登場で、プレミアムRTD市場は新たな段階の突入した気がします。ブルックラディにとって、RTD缶は、各ブランドが自らの哲学と市場戦略を凝縮して表現する「試金石」となることでしょう。
コンビニエンスストアという巨大な流通網を通じて、これまで専門店の棚でしか出会えなかったクラフトウイスキーの世界が、より多くの人々の手に届くようになります。この小さな缶が、ウイスキー業界の未来にどのような変化をもたらすのか、その動向を注意深く見守りたいです。