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はじめに
今回のインタビューはアジア人として初めて2015年に「ウイスキー殿堂入り」を達成した世界的ブレンダーの輿水精一さんに、彼の生涯とウイスキーへの想いについてインタビューをさせて頂きました。
全3回に及んだ今回のインタビュー、輿水さんのものづくり・クラフトマンシップへの強いこだわりとは一体なんなのか。ぜひお楽しみください!
日本が誇る世界的ブレンダーのひとりで、イギリスで行われる世界が注目するコンペティション「ISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)」では2004年から11年間審査員を務めるなど、世界でウイスキー業界の発展に従事する。
手がけたウイスキーはこれまでさまざまな賞を受賞し、世界的なウイスキー品評会「WWA(ワールド・ウイスキー・アワード)では2011年に「響21年」が世界最高のブレンド賞「ワールドベストブレンデットウイスキー」を2年連続で受賞する。
2015年には、アジア人で初めて業界も認める権威あるウイスキー専門誌「ウイスキーマガジン」が長年に渡りウイスキー業界において特筆すべき貢献を果たした個人に贈る栄誉ある賞「Hall of Fame」を受賞し、「ウイスキー殿堂入り」となる。
現在はサントリー名誉チーフブレンダーとして、ジャパニーズウイスキーをより高める活動に取り組む。
1.サントリー入社時の配属希望は『ものづくり』
ーー本日はインタビューを快諾していただきありがとうございます。輿水さんは、1973年にサントリーに入社されていますが、当時からウイスキーに特別な想いを持っておられたのですか?
ーーそうだったんですね! 入社当時は、「こんな業務がしたい」という希望はありましたか?
蒸溜所でもワイナリーでも、もちろんそれ以外のでもいいので、とにかく現場の『ものづくり』に関わりたかったという気持ちがありました。
そうしたら最初に配属されたのが武蔵小杉にある多摩川プラントという、洋酒のボトリングプラントです。お酒をブレンドしたり瓶詰めしたりする工場ですね。
もちろん、そこでも間接的にウイスキーの業務には関わっていたのですが、『ウイスキーが特別好き』ってのはその時点ではなかったです。
2.ウイスキーの奥深さに魅了された研究所時代
ーー輿水さんがウイスキーに興味を持たれたのはいつ頃からだったのですか?
それは、多摩川プラントの次に配属された研究所に入ってからです。
そこで、9年間『ウイスキーの貯蔵と熟成』の研究に取り組んでからウイスキーの魅力に取り憑かれました。
ーーどんなところに魅力を感じたのですか?
ウイスキーの貯蔵、熟成がなかなか思い通りにいかないところですね。
発酵や蒸留はけっこう、化学的に最適条件を求めにいくことでいいものができるというのが多いですが、熟成とか貯蔵に関しては、そうもいかないのです。
もちろん熟成や貯蔵の専門家はいるのですが、1つの貯蔵・熟成技術を研究しようとしても10年、20年置いて初めて結果がわかる世界です。専門家といっても樽造りから貯蔵現場までを全て熟知している人は殆どいないというのが現状でした。
そういう、ブラックボックス的でミステリアスなところだからこそ、やりがいを感じました。
何十年も経った今でも、ウイスキーの魅力はそこにあると思っています。
ーー素敵ですね…! 研究所時代で一番印象に残った研究テーマはなんだったんですか?
ウイスキーに関して言えばアルコールと水がつくる「クラスター構造」(分子同士が特定の条件下で作る特殊な構造体)と味の関わりの研究とか、「ワインの連続発酵」の研究が面白かったです。
ーーなるほど。その研究、詳しくお伺いしてもいいですか。
「ワインの連続発酵」は、つまり最新のバイオテクノロジーを使った研究ですね。
固定化酵母という特殊な酵母(酵母はワインの発酵を担う微生物)を使って、ワインを今まで以上に効率的に量産する仕組みの研究開発だったのですが、「ワインの持つ情緒的な価値が生かされない」と言われてしまい、あまり受け入れてくれませんでしたね(苦笑)
当時の研究チーム。輿水さんは上列右から2番目(出典:ご本人)
それから「樽づくり」の研究もしました。これは一番頑張りました。
ーー『樽づくり』の研究…??
はい。木材の水分が樽造りや熟成にどんな影響を及ぼすかについての研究です。
ブレンダーはものづくりの過程を理解することが大事ですが、その中でも自然条件に左右されやすい貯蔵に関しては体系だてて理解することが難しいので時間をかけて体で覚えていくしかありません。
自分はたまたま「貯蔵に使う樽と熟成品質の関係」というテーマで研究をやっていただけあって、ブレンダーになる前から貯蔵する樽と味の結果についての分類がある程度できるようになりまして、このあと話していくブレンディングの現場に配属されてからもこの力がかなり生かされました。
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